第16話

今日も私は、一人路上でライブ活動をしていた。ギターを弾きながら歌うというありきたりなものだったが、私は歌手になるという夢を叶えるために、毎日のようにそれを続けていた。

己で一から作詞作曲をする。それは決して楽なものではなかったが、私は楽しかった。自分が奏でる歌を聴いて、みんなに元気をあげられたら。そう思っていたから。...しかし、現実は厳しかった。

生活費を稼ぐためにバイトをしても満足な収入を得られず、日々切り詰めても月末にはお金はほとんど手元には残らなかった。また、完成した曲を披露しようと路上ライブを行っても、なかなか人は立ち止まってはくれなかった。

それに、たとえ曲を最後まで聴いてくれても、お金をくれずに足早に去ってしまう人だっている。

そのため、路上ライブによる収入は雀の涙程度。だから私は精神的にも、身体的にも追い詰められていった。苦しかった。

誰かに私を、私の作った曲を認めて欲しかった。この状況から、救って欲しかった。―――そんな時、私は"あの人"に出会った。


***

「さあ、着いたわよ」

車に乗ってから30分後、3人はようやくショッピングモールに到着した。

「久遠さん、大丈夫?」

「うん...大、丈夫...」

久遠は慣れない車による乗り物酔いに苦しんでいた。ふらふらしながら車から降りる彼を、遥と恵美は心配そうに見つめる。

「とりあえず、3階に休憩する所があるからそこに行きましょう?」

何か飲めば気分が良くなるかもしれないから、と恵美は顔面蒼白な久遠に言った。恵美の発案により、3人はエレベーターに乗り休憩所へ向かう。

「...平気ですか?それにしても、久遠さんって酔いやすい人だったんですね」

家族連れや学生など多くの人々で混雑するなか、どうにか席を確保した3人は一息いれていた。

「もう平気。僕、物心ついたときからこんな調子で...」

治せたらいいのに、と久遠は悩ましげに遥にそう話す。

「そうですよね...私は全然乗り物に酔ったことが無いから分からないですが、久遠さん本当に辛そうでしたもん」

誰か治す方法知らないですかね、と遥は言った。

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