第6話

***


気が付けば彼は、少女の家に上がっていた。

『どうしてこんなことに...』

あの一連の出来事の後彼は、少女の言われるがままに公園から家へと案内されたのだ。

『...僕を家に招き入れても、あの子になんの得もないと思うんだけどな』

理由を聞こうにも、少女は彼に飲み物とお菓子を出し「ちょっと待ってて下さいね」と言ったっきり、まだ帰ってこない。―――まさか、"あの人"の罠?

「...」

なんだか落ち着かなくて、周囲を見渡してみる。広くシンプルなリビングルームには大きな窓があり、そこからは庭が見えた。

『あれは何と言う花だろう?紅くて...とても綺麗だ』

かなり手入れされた庭らしく、名前も知らない色とりどりの植物が、見事に咲き誇っていた。―――自然に生えた植物って、あんなに鮮やかなんだ...

「お待たせしました、お兄さん」

植物に見入っていると、背後から少女の声がした。振り向くとそこには、少女の他にも女性が一人立っている。少女より少し背の高い彼女は母親だろうか、こちらと目が合うと会釈した。つられて彼も会釈をする。

「初めまして、私はこの子の母親の櫻井恵美(めぐみ)と申します。...貴方を招くよう言ったのは私ですの」

微笑した彼女は、彼とは机を挟んで真向かいに座った。セミロングの胡桃色の髪が、陽の光に照らされキラキラと輝く。少女もあとに続き、彼女の隣に座った。

「こちらこそ初めまして。しかし、一体どうして僕をこちらに呼んだのですか?」

彼は早速、一番聞きたかったことを恵美に尋ねる。すると、彼女は柔らかな口調で答えた。

「...それは、貴方を助けたいと思ったからです。娘から"公園で具合の悪そうな人がいる"と聞き、私はいてもたってもいられなくなりました。...自分はその人に、何かしてあげることは出来ないか、と」

青年は表情を変えず、黙って恵美の方を見る。

「そこで思い付いたのが、貴方に家に来てもらうことでした。"公園で眠っていた"ということは、何か事情があるのでは?」

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