第5話


***


一方、黒スーツの男達も密かに動き出していた。あの後現場周辺を調査した男達は、結果を報告しに引き上げたのだった。ノックを3回し、ドアノブを捻る。―――薄暗く、優雅な部屋に彼女はいた。純白のカーテンのかかったセミダブルのベットに、大理石の床。その上には深紅の絨毯がひかれていた。部屋の中央に設置されたシャンデリアからは、妖美な光が放たれる。

「只今戻りました、マダム。"彼"についてご報告に参りました」

そんな中一人の壮年の男が、椅子に座っている女に頭を下げた。


「...ようやく来たわね」

マダムと呼ばれたその人物は、ウェーブのかかった長い黒髪に紅を塗った唇が印象的な女性だった。白いガウンを身に纏い、カクテルを飲む彼女のその表情は読み取れない。

「待っていたわよ...まだあの子は見つからないようね?一体どれだけの時間を費やせば気が済むのかしら...」

刺すような声を、男に浴びせる。

「...も、申し訳ございません。ですが」

「言い訳はいいわ。一刻でも早くあの子を連れ戻してちょうだい」

冷や汗をかく男の言葉を遮り、彼女は窓の外を眺める。ビルやマンションが立ち並ぶ景色が一望できるそこからは、綺麗な夜景が見えた。

「...了解しました。先程彼の行動ルートを把握した為、近日中には連れてくることが出来るかと」

「そう...分かったわ」

男は振り向きもしない彼女に再び頭を下げると、失礼しますと静かに退出した。

「逃がさないわよ...私の愛しい久遠...」

持っていたカクテルを一気に飲み干す彼女の部屋には、不気味な笑声が響き渡った。

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