第7話
そう自分の意思を彼に伝えると、唇を閉じ彼の方を見た。優しく慈愛に満ちたその表情に、彼は反射的に問う。
「―――ですが、僕名前も素性も、何一つ貴女方に教えていないのですよ?なのにどうして、僕を助けようとしてくれるのですか?貴女方に利益はないし、助ける義理もないではないですか」
つい感情的になってしまった気がして、彼女から視線を逸らす。すると今度は、娘が答えた。
「名前を知らないのはお互い様ですよ。私だって、お兄さんに名前を言ってませんから。...それに、利益ならありますよ」
彼女は笑顔でこう言った。
「お兄さんの助けになれたことが、私にとっての利益なんです」
その言葉を聞き、彼は目を見開いた。
「えっと、それじゃあ私から自己紹介させてもらいますね。私の名前は櫻井遥(はるか)って言います。少し背は低いですが、17歳です。お兄さんの名前は?」
「僕の、名前...」
彼女達になら言えるかもしれない。そう思い彼も名乗ろうとしたが、言葉が突っ掛かった。―――あれは、僕の本当の名前だろうか。
「お兄さん、大丈夫?顔色悪いですよ?」
急に押し黙った彼を、遥は心配そうに覗きこむ。母親も、こちらに心配そうな表情を向けた。
「ありがとう...大丈夫」
彼は一呼吸置くと、名前を言う決心をした。
「僕の名前は、久遠と言います。歳は18です...よろしくお願いします」
そう久遠は、二人に軽く自己紹介をした。
「私より一つ上なんですね...!こちらこそよろしくお願いします、久遠さん!」
「久遠君っていうの。こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
二人を眺め、恵美は微笑ましそうに言った。
「...さて、挨拶はこのくらいにしておいて、二人ともお腹が空いてるでしょう?ちょうどお昼の時間ですし、交流も兼ねて昼食を頂きましょう。遥は、ここで待っていてちょうだいね」
そう言うと、彼女はキッチンへと向かった。―――彼女がいなくなり、リビングには久遠と遥が残った。
『...気まずい』
元来口数の多くない彼にとって、この状況は苦手そのものだった。...一気に時間の流れが遅くなった気がした。
「あの、久遠さん」
何を話そうか考えていると、向こうから話しかけてきた。
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