第8話

「久遠さんは...どうして公園で眠っていたんですか?」

正直なのか、彼女はいきなり核心に迫ってきた。その言葉に、彼は眉をひそめる。

「あっ、安心してください...!!他の人に話したりしませんから!ただ、もし困っていたら助けになりたいと思っただけで...」

聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったのか、彼女は慌てたように手を動かす。彼女になら、話してもいいかもしれない。だけど...

久遠は重たい口を開いた。

「...ごめん。詳しくは...話せない」

「そう、ですよね。ごめんなさい...」

謝ると、遥は俯き口を閉じた。部屋には、再び沈黙が訪れる。助けてもらっておいて、状況を話さないのは身勝手かもしれない。だが助けてもらったからこそ、話して万が一彼女達の身に何か起こって欲しくないのだ。―――しかし、そんな久遠の想いを、一回のインターホンが打ち砕いた。

「はい、どちら様でしょうか?」

遥は席を立つと、壁に備え付けられたモニターから対応する。久遠は息をこらし、聞き耳をたてた。

「...人探しをしている。こんな顔のヤツを見なかったか?」


モニターに映るのは、坊主頭の荒っぽい訪問者だった。男は遥の声を確認すると、玄関のカメラに向かって一枚の写真を見せる。

「...!!」

それを一目見て、遥は思わず言葉を失った。―――写真に写っていた人物が、銀髪の青年だったからだ。

「...おい、見えてるか?見えてんなら返事しろ」

そんな彼女を畳み掛けるかのように、男はどすの利いた声で言う。こっちは急いでんだ、と苛立ちを顕わにしてモニター越しに睨んできた。

「あ、すみません...」

威圧するような男の態度に、思わず声が震えてしまった。そして後ろを振り返り、彼女は一瞬にして悟る。柄の悪い坊主頭の男、それが持っていた写真...そして、椅子に座っていた人物の表情。

彼は真っ青な顔をし、彼女の方を向いたまま氷ついたように動かない。

『言わないで』

そう瞳が訴えかけていた。―――彼はこの男に追われている。なんとかしなきゃ、と彼女は咄嗟に嘘をついた。

「...すいませんが、この辺りでは見かけませんよ?」

遥が謝ると、男は舌打ちをして何処かに行ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る