第10話
***
恵美に案内されたのは、2階の洋室だった。6畳くらいの広さのそこは書斎になっていて、多種多様な本が並べられている本棚や、丸いスタンドが置かれた机が目に入った。部屋の隅には寝具が一式ある。
ここは今誰か使っているのかと久遠が聞くと、彼女は"以前夫が書斎として使っていた"と答えた。彼女曰く、夫は大変読書好きでよくここで本を読んでいたという。しかし現在は仕事の関係で、半年以上家に帰ってきてないらしい。一通りのことを久遠に伝えると、"何か困ったことがあったらすぐに聞いて下さいね"と彼女は下へ降りていった。
それを見送った後彼は部屋に入り荷物を端に置き、カーテンを開いて窓の外を眺めた。そこから見える空は綺麗な橙色に染まっていて、立ち並ぶ建物も反射して黄金色に輝いていた。
「...自分の運命は、自分で変えてみせる」
覚悟を決めるように、ひとりそう呟いた。
***
一方リビングでは、遥と恵美が雑談をしていた。
「―――で、遥は久遠君のことをどう思ってるのかしら?偶然とはいえ、年上の男の子を連れてくるなんて...」
普通は知らない人は家に上げないものよという恵美の言葉を聞き、遥は飲んでいた紅茶を零しそうになる。
「べ、別に何とも思ってません!...ただ私は、困っている人を助けたかっただけだから!!」
遥が顔を真っ赤にして首をよこに振るのを見て、恵美はニコニコしながら会話を続ける。
「冗談よ。でも、あの子とても真面目そうで良い子じゃない?ただ、何処か人を避けているような気がするけれど...」
恵美はそういうと、淋しそうな表情をした。
「うん。だからこそ、私は放っておけなかったの。それに...近くにいた白い猫から、久遠さんのことを任されたような気がして...」
猫の気持ちなんて分かる訳ないのにね、と遥はティーカップを口に近づける。果物の香りが鼻をくすぐった。
「そうだったの...まるでおとぎ話みたいね」
恵美は目を細くすると、階段の方を見る。
「...少しでも、力になれるといいわね」
私も協力するわと彼女が言うと、うん、と遥は頷いた。
***
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