第11話
一方久遠は、椅子に座って荷物を整理していた。
「そういえば、着替えとかお金とか急いでたからほとんど持ってきてないな...」
身につけているチェックのスラックスと白いオフショルダー以外、外に着て行くものなどない。お金も、数日過ごせるくらいしか手元になかった。それは″一日だけ″と強がりを言ってしまった久遠に、容赦なく厳しい現実を突きつける。
「どうしよう...」
明日以降はどう動くべきか。彼女たちの言葉に甘えて、暫くここに身を置くべきだろうか。仮にここを離れ迂闊な行動をとれば、彼等に見つかるのは目に見えている。が、かといって慎重に行動する時間もない。そんな懊悩する久遠に呼応するかのように、身に着けているチョーカーの翡翠が淡く光った。
「...僕は所詮、あの人の傀儡(くぐつ)に過ぎないのかな」
彼は失笑すると、机に突っ伏した。
***
風呂から上がった久遠は恵美のもとへと行き、新品の寝間着のお礼を述べ、借り部屋に戻った。遥の父のタンスに眠っていた紺のそれは、久遠には少し大きかった。仕方なく、袖を捲る。暫く彼は、布団の上で横になっていた。
「...暇だな」
手持ち無沙汰な彼は、ごろんと寝返りをうってみる。
「あ」
すると、様々な種類の本が納められた本棚が視界の上の方に入った。そうか、ここは書斎だった。
『確か、本を見ても構わないって言ってたよな』
彼は立ち上がり、本棚の前に行くと何か面白そうなものがないか探してみる。普段からすすんで書物を読む彼にとって、この部屋は興味の絶好の対象だった。
『推理小説にサスペンス...それに、何故か絵本まである』
「―――ん?これは...?」
そのなかで、一冊の本が久遠の目に留まった。吸い寄せられるように、彼はその本を手に取る。古い本なのか、渋紙色のそれはところどころ痛んでいた。
『えっと、題名は..."Gimmiclock"か』
表紙には金の刺繍で、本の名前と懐中時計が描がかれていた。その題名と表紙に興味を持った彼は、それを手にして再び布団へ戻ると、出版日を確認するため巻末を見た。
「あれ...?」
しかし、そこには出版日はおろか、出版社や執筆者さえ記されていなかった。
『...』
少々気味が悪いと思いつつも、彼は最初のページをめくるとそこには、モノクロの一枚の絵が描かれていた。
巨大な時計と、それを挟むように配置された針と歯車。
時計は不完全で、針と歯車は抜けていた。
果たして、これは何を意味するのだろう。
それを確かめるべく、久遠はページをめくろうとした。
「―――っ」
と、その時、激しい睡魔が彼を襲う。
久遠はそれに必死に抵抗したが、それも虚しく意識を失った。
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