GimmiClock

禄星命

第1話

"運命"

それは 時に残酷で 時に美しい


人は誰しも 与えられし運命がある

生まれ落ちた瞬間に それは決まる


そう 人は運命に逆らうことはできない

だからこそ人は 時に己の運命を恨むのだ


不変のそれを 変えることが出来ないから

不平等だと嘆くのだ


この物語は そんな人々の運命を巡った

一人の青年の過去である



***


薄暗い路地裏に、彼はいた。

「...」

黄昏の時間にたったひとり、息を殺し辺りの様子を伺う青年は、どこか人と違う雰囲気があった。深く羽織った黒いフードからは、碧みがかった銀の髪が覗く。瑠璃色の瞳は不安げに揺れていた。

湿っぽい空気の流れるこの場所は狭く入り組んでいて、そう簡単には人目に付かない。無造作に捨てられたゴミ袋や缶が足元に転がっているのが、一層その事を主張していた。

「...っ」

そのため、気持ちを落ち着かせようと空気を吸おうとしても、そこから放たれるゴミ特有の臭いが鼻を刺激する。彼は中指にシルバーリングをはめた左手で鼻を覆い、かろうじて息をした。

そんな劣悪な環境のなか、彼の視界には白い猫が一匹映った。

長い尻尾をもったそれは悠然した態度で、青いゴミ箱の蓋の上にうずくまっている。首輪こそしていないが、その毛並みはこの場に似つかわしくないくらい、とても美しい。

すると猫は彼の気配に気づいたのか、顔をこちらに向けた。


凛とした空色の瞳はまっすぐ彼を見据えていて、その表情はまるで、彼の未来を見通すが如く真剣なものだった。

「不思議な猫だな...まるで」

この猫は、僕に何か伝えたいみたいだ。見つめながら、そんなことを彼は思う。その刹那に、後方から不規則な足音が聞こえてきた。

どうやら複数いるらしく、音はしだいに大きくなっていく。

『!?...まずい、早く何処かに隠れないと...』

彼はハッと我に返ると立ち上がり、素早い動作で周囲を見回した。

が、辺り一面灰色の壁が広がるばかりで、生憎隠れられそうな所など何処にもない。まさに絶体絶命だ。

『どうしよう...このままじゃ』

彼が眉間にしわを寄せていると、突然ニャアと声がした。


振り返ると先程の猫が足元にいて、彼のブーツを引っかいている。

『!?いつの間に...』

猫は彼と目があうと、急ぎ足で声と反対の方へ進んだ。

『もしかして..."ついて来い"ってこと?』

決して猫の気持ちや考えが分かる訳ではないが、彼は藁にもすがる思いで小さくなっていく猫のあとを追った。

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