第3話

「口に合うかな?...腹持ちはいいから、とりあえずこれで我慢してね」

そして一人と一匹は軽く食事を済ませると、公園内に設置された空洞の遊具の中に入った。ここなら風や、万が一雨が降ったとしてもそれらをしのぐことが出来る。しかも人目に触れにくい為、彼にとって非常に好都合な場所である。

「またあいつらに見つかったら大変だしね」

そう苦笑すると、彼はすぐそばで丸くなっている救世主に、バッグから取り出したタオルをそっと掛けた。

『...お休み』

横になった瞬間、激しい眠気が彼を襲った。今日一日で、身体的にも精神的にも疲労が多く溜まったからかもしれない。

彼はそれに逆らわずに身体を横にすると、目を閉じて、そのまま意識を手放した。


***


...不思議な夢を見た。

金髪で僕より背の高い人が、僕の方を向いて"逃げろ!!"って叫ぶ。


周りには知らない人達が大勢いて、その人を押さえつけていた。僕は彼の言葉を聞いて、必死に逃げた。でも間もない頃、僕も彼のように捕まってしまう。―――夢はそこで終わった。


***


「―――、――!!」

遠くから声が聞こえる。...何だろう、身体が動かない。これは――夢?

「――さん、――りして!!」

聞き覚えのない声は、次第大きくはっきりと聞こえてきた。

「お兄さん、しっかりして!!」

はっと目を覚ますと、彼は中学生くらいの子達に囲まれていた。心配そうに見る者や、ニヤニヤと意地の悪そうな者がこちらの顔を覗きこむ。

「お兄さん、具合悪いの?大丈夫?」

状況が飲み込めていない彼を心配した様子で、長髪の少女が聞いてきた。深紅のマキシスカートに白のブラウスという、大人っぽい格好をした少女。

彼女は青年の手を握っていて、その手は僅かに震えている。


「うん...大丈夫、ありがとう」

青年は上体をゆっくり起こすと、ガラス張りの天井から空を仰いだ。もう太陽は昇っていて、外からは子供達の楽しそうな声が聞こえる。

悠長にしている場合ではないのに、ずいぶん長い間眠ってしまっていたようだ。

「ところでさ、お前なんで髪染めてんのー?似合ってねーよ?」

「なんでこんな所で寝てるんですかー?あ、もしかしてホームレス!?ちゃんと風呂入ってますかー?」

少年達は彼が意識を取り戻した途端、口々に揶揄し始める。

「もー!やめなよ男子!!」

そんな少年達に、眉尻をつり上げた少女達も負けずに言い返す。双方が言い合いをしている時、彼はふと隣を見た。

―――しかしそこには猫の姿などなく、タオルが一枚置かれているだけだった。

『あれ...?』

僕が寝ている間に何処かへ行ってしまったのだろうか。

「女子がキレたー!逃げろー!」

「バーカ!!何本気で怒ってんの?」

少年達は少女達をからかうと、満足したようにさっさとどこかに行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る