第26話

運命に多大な影響を与えた人物の情報を得ることは出来なかった。つまり...

「まさか、僕以外にも運命に干渉できるひとがいる...?」

そんなことがあるのだろうか。彼の脳内で、言葉が再生される。

『...久遠、あなたは特別なの。その力を持つ人間なんて、他にはいないのよ?だから―――』

その言葉が蘇った瞬刻、彼は背筋が寒くなるのを感じた。″あの人″のことを思い出すだけで、どっとストレスが溜まる。

「それにしても一体、誰がなんの為に...」

この出来事は、自分に関係することなのか。だが情報は何もないため、考えても分かるはずもない。心の中にもやが残る。

『考えても仕方ない、か。とりあえず、今日は何とか帰ってこられてよかった。服も手に入ったことだし。明日からは、本格的に探さないと』

紙袋の中から服を取り出し、それを床に置く。服は店員の意見を参考にして選んだもので、若者に流行りのものらしい。白のタンクトップに、黒のノースリーブパーカー。どちらもシンプルながらも、控えめに模様があるのが特徴だ。眺めている久遠の口角が、僅かにあがった。


***


同時刻、遥は久遠の行動について少し気になっていた。彼はイベントが終わった直後に急にいなくなり、外が騒がしくなったと思ったら戻ってきた。また、どこに行っていたのかと問うと、あやふやな返答しか返ってこなかったからだ。

『う~ん...』

何か話せない理由があるのだろうか。イベントと外の騒ぎに、何か関係があるのか。現に、それまでは変わった行動はなかった。さまざまな考えが頭の中で浮かびあがる。遥はなんとなく、ベッドの上でクッションを抱えてみた。

「あっ!分かった!」

暫くすると彼女は立ち上がり、笑顔で自室をでた。

「久遠さん!」

「うわっ!?」

背後から急に遥が現れたため、久遠は思わず肩が強張った。しかし、そんなことはお構いなしに遥は一歩近寄ってくる。

「久遠さん、どこに行ってたのか教えてくれませんでしたよね?」

彼女の迫力に、久遠はただ頷く。

「私、分かったんです。どうして教えてくれなかったのか...」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る