第25話

人は何故、他人と比較してしまうのか。どうして、自分の″価値″を人に決められてしまうのだろう。なにが原因で、他人の価値を定めてしまうのか。価値を決めつけあっては、己より上にいる者を妬み、下にいる者を嘲笑う。

さて、この根本原因は一体どこからきているのだろう。それは、おそらく学校や会社といった大衆からだろう。そうオレは考える。そこでは、得意不得意は個性であると主張する。しかし一方で、試験という統一された物差しで個人の能力を測りとり、普通(平均)を生み出しているのもまた大衆なのだ。

大衆化された人間の心理には、「普通」が価値のラインと植えつけられており、人々は己が平均...またはそれ以上でないと不安でしかたないのだ。だから人々はこの「普通」から、人の価値を決めてしまうのだろう。個性を訴えながら、普通を望む。...可笑しいと思わないか?普通と個性。双方は共存し得ないのだから。

―――斯く言うオレも最初は大衆と同じように、「普通」が一番だと思っていた。だが、普通ということは大衆におけるモブ的存在でしかないことに気がついた。その日から俺は、普通じゃない...つまり、個性を持った人間を目指すようにした。モブと化したくない。そう思ったからだ。


それからオレは考えた。どうしたら、他を圧倒できるような個性をもつ存在になれるのかを。オレは勉強も、スポーツも...これといって目立ったとりえが何一つとして無い。はっきり言うと、みな平均レベルにいくかいかないかだ。

『他より秀でた才能が欲しい』

―――そんなオレの願いを

「アンタも、運命を変えたい人間だな?」

という一声で叶えてくれた男がいた。


***


櫻井宅に帰宅した久遠には、頭から離れないものがあった。仮部屋に籠り、机の前で腕組みをする。

『よく思い出せないの...まるで、霞がかったよう』

「運命を変えた人物のことを、彼女は全く覚えていなかった...。一体どうやって?普通の人間に、こんな事が出来るはずがない」

本来人の運命には定められた範囲内で小さな分岐点があり、それは時として他人によって決められることもある。しかしその場合、関わった人物が誰かを覚えているはずなのだ。また、運命は今回のように人により大きく変えることも出来ないはずだった。しかし冬華からは、

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