第21話

陽が、空が橙色に染まるこの時間が、彼女は好きだった。

「...今ここで、運命を変えられたら...私の夢が、今日までの日が...無くなっちゃう」

手に持っていた企画書をぐしゃっと握りしめる。彼女の瞳からは、光が失われていた。

「そのためにも...」

「見つけましたよ、冬華さん」

声のした方を振り向くと、そこには一人の男が立っていた。

「っ、見つかっちゃった...」

すると冬華は、イベント会場の時のようにニコッと微笑む。その目は笑っていない。

「...キミは、人の運命を台なしにする子だって、聞いたの。...だから、私に近づかないで。今の運命が、私の...本当の運命なの」

「!?...何を言ってるんですか?」

「...とぼけないで。私の歌手活動を...邪魔しに、来たんでしょ?...久遠ちゃん?」

訳が分からないといった様子の彼に、しらばっくれないで、と冬華は馬鹿にしたように言った。


「違います!僕は...貴女の運命の歪みを直しに来たんです。...貴女をあるべき道に戻すために」

久遠は真っ直ぐ、冬華を見据える。

「直す...?ダメ、そんなこと...しないで。私、また...あの生活に、戻っちゃうの...?誰も、認めてはくれない...あの日々に?ひとりぼっちで、苦しむ...毎日に!?そんなの...絶対にイヤ!!」

「落ち着いて下さい!!」

頭を抱え苦悶の表情を浮かべる冬華は、苦しそうに呼吸する。

「...嘘。うそ、うそよ...!!そうやって、私のことを...騙すんでしょ...!?私の夢を...邪魔するんでしょ...!?」

「誰に吹き込まれたか知りませんが―――今は僕を...信じて下さい」

激しい怒りを表す彼女の目を見て訴えかけながら、彼はゆっくりと歩み寄る。

「...貴女は本来、そんな人ではないはずです。己の運命を憎む、悪い人では...だから」

久遠はコンタクトを外し、じっと冬華の瞳を見つめる。

「元の貴女に戻りましょう?大丈夫、貴女の運命は...貴女が思っっている以上に、素敵なものですから」

「...あ...」

優しく語りかけると、彼女はフェンスに寄り掛かる状態で、深い眠りについた。

「さて、と」

一応辺りを見回し、誰もいないことを確認する。そうして久遠は冬華の手に触れると、瞳を閉じて彼女の意識にリンクした。


***


規則的な音を響かせる時計が、彼を取り囲んでいた。形も大きさも様々な時計は、刻むタイミングはバラバラだが、規則的な音を奏でている。なかには、すでに止まってしまっている時計もあった。

『...』

彼は早速耳に手をあて、暫し集中する。

...カチ、カチチ...

『!あった―――』

一つだけ不規則な針が、久遠の右手上方に。それは真っ白な空間に浮かぶ、紺碧の丸い時計。彼はそれのすぐ傍まで近づき、問題の針に手を翳すと、両目を閉じ口を開く。

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