第20話
久遠は冬華の運命に歪みが生じているのを確認すると、左目を閉じをスッと手をかざす。すると、彼の瞳は何事もなかったように右の瞳と同じ色に戻った。
『遥さんと恵美さんから上手く離れて、なおかつ彼女に自然に接触するには、一体どうすれば...』
彼女に接触するのは、そう簡単なことではない。そして久遠が作戦を練っているうちに、いつの間にか曲は終わってしまった。観客が持っていた使い捨てライトの光は消え、会場には明るさが戻る。冬華が深くお辞儀すると、会場からは暖かい拍手が送られた。
「とっても良い曲でしたね~。私、感動しちゃいました」
「う、うん!?そうだね」
曲そっちのけで思慮に耽っていたなんて、口が裂けてもいえない。余韻に浸っている遥に、久遠は調子を合わせる。と、その刹那、誰かの視線を感じた。それに反応し久遠が振り向くと、冬華の瞳がこちらを真っ直ぐ見ている。その瞳は冷たく、何かいいたげだ。
『...』
久遠も黙って冬華を見る。
「...今日のイベントは、ここまで...。みんな、ありがとう。それと...これから、さっきの曲を収録したCDを販売するから、よろしくね...」
彼女はそう言うと、手をヒラヒラ振ってステージを降り、さっさと裏へ回ってしまった。彼女がステージから姿を消すと、人々は各々の行動をし始めた。踵を返しこの場から立ち去る者や、歌に魅了されCDを購入する者。久遠達も動こうとしたが、荷物もあるため、この人混みの中掻き分けていくのは至難の業だった。それよりも、久遠は先程の彼女の瞳が気になっていた。
『早く行かないと、見失ってしまう』
一刻もはやく、彼女と接触しなければ。
「ごめん、遥さん!!これ、お願い!」
「え!?久遠さん!!」
言うが速いか久遠は服の入った紙袋を遥に押し付けると、雑踏に紛れ消えた。
***
「...マネージャーさんの言う通り、あの男がいた...」
人気(ひとけ)のないテラスに、彼女はいた。ここの場所を知っている人間は、ほとんどいないからだ。フェンス越しに、空と街並みが溶けて混ざりあっている景色を眺める。
「綺麗...」
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