第37話
***
友人達が悪巧みをしているとも知らず、遥は息せき切って玄関へと駆けていた。
「―――っ、久遠さん!」
膝に手を置き、息を整える余裕もなしに彼女は、後ろから声を掛けた。
「あ、遥さん...大丈夫ですか?」
「はい、なんとか...。というか、どうして学校に?」
久遠は振り返ると、手に持っていた紙袋を遥に差し出した。それを受け取ると彼女は、はっと中身を確認する。そこには、緑色の布に包まれたものが入っていた。
「...わざわざ届けてくれたんですね」
ごめんなさいと彼女は、深く頭を下げた。久遠は頭を上げてと、困ったように笑う。
「気にしないで。これは自分から言い出したことだから」
学校がどんなものか、一度見たくって。そう言うと久遠は、軽く辺りを見渡した。ここからでも見える、大きな食堂。そこからは学生たちの、とても楽しそうな声が聞こえる。
『ねぇ、遥と話してる人、さっき校門で見た人だよね』『うん。やっぱ知り合いだったみたいね』
二人の様子を、物陰から覗いている3人の姿があった。彼女らは食堂の反対側に隠れていた。だが距離が遠く、ここからでは話の内容は聞き取れない。
『ねぇ...もう帰ろうよ。こんなこと、もし遥ちゃんに見つかったら...』
軽くウエーブのかかった髪の友人は、野次馬な彼女達を必死に説得する。しかし彼女達は好奇心が打ち勝っていたため、聞く耳などもっていなかった。
『だいじょーぶ!あたしら、そんなヘマしないからさ』
そう勝ち誇ったような顔つきで彼女は、聞こえるところまで接近しようと試みる。しかし―――
「あれ?みんなどうしてここにいるの?」
さすがにこれ以上の接近には無理があったようで、あえなく遥に見つかってしまった。友人達は油断して、うっかり足音をたててしまったのだ。
「!?えっと、あはは...」
手を頭に苦笑いを浮かべる友人に、遥は怒ったような素振りをみせる。
「...いつからいたの?」
その言葉と表情に、申し訳なさそうに友人達は正直に答えた。
「ん~と、最初から...あ!でも安心して!話の内容は聞こえなかったから!」
「まったくもう...」
呆れたように、遥はため息をついた。眉を下げる友人たちは、やはり憎めない。
「それじゃあ、僕は帰りますね」
「あ、まっ―――」
友人達に軽く会釈をすると、久遠は遥の返事を待たずして踵を反した。―――そして、ここまでの一連の出来事を密かに監視されていることを、彼女らは知る由もなかった。
***
「で、結局あの人は遥のなんなの?」
放課後、ファストフード店にて遥は、友人達から質問攻めにあっていた。友人からの問いに、彼女はただ困惑した顔を見せる。
「だって、まえ遥"一人っ子"って言ってたじゃん?だからうちらはてっきりカレシかと思ってたんだけど」
「へ!?」
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