第36話
『やっぱり、あの人たちのせい?』
日々教室内で繰り返されていたあの出来事。遥含むクラス中の人間はそれを知っていたものの、誰もが黙認していた―――。クラスメイトも、先生も。誰も、"彼"に救いの手を差し伸べなかった。遥も、傍観者の一人だった。...助けたいという気持ちはあったものの、彼女は行動に移せずにいた。
『クラスメイトとして...私はどうすればよかったのかな』
あの時の、"彼"の瞳を思い出す。遥の心が、チクリと痛んだ。
「―――か?遥ってば」
「え?」
ふと意識が戻ると、友人が目の前で手をひらひらと振っていた。話しかけても返事がなかったためらしい。
「それにしても、今日の授業なんか長くない?時計見ても、全然針が進まないしさ~」
ボーイッシュな彼女はけらけら笑うと、弁当の包みを開く。
「あっ」
すると鞄に手を突っ込んだまま、遥は急に声を発した。その声に、友人は弁当の蓋を持ったまま遥の方を見る。
「ない...」
「びっくりした~。で、何がないのさ?」
遥は鞄から手を抜くと、ゆっくりと友人の弁当箱を指さした。
「お弁当、家に忘れてきちゃった...」
***
「ここが、遥さんの通う学校か...けっこう大きいな」
一方久遠は、何故か校門の前にいた。右手には、茶色い紙袋を持っている。
『私服だし、変に目立ちたくないけど...この格好なら大丈夫だろう』
そう自信を持つ久遠の外見は、普段とは全く異なっていた。黒い髪に、同じく黒っぽい瞳。一見すると、どこにでもいそうな青年だ。彼は恵美から渡された紙を懐から取り出すと、玄関へと向かった。
***
「遥、お弁当忘れたんだって?」
「うぅ...」
久遠が学校に向かっていることもつゆ知らず、遥は肩を落としていた。購買から帰ってきた2人の友人達は、彼女に同情の眼差しを送る。
「諦めて、購買で買ってきたら?」
「うん...そうしよっかな」
早く行かないと売り切れちゃうよと、紙パックのジュースをペコっと膨らませ友人は言う。仕方なく遥は、財布を取り出した。
「ねぇ、あれ」
その時、ちょいちょいと、ボーイッシュな彼女は遥たちに手招きをした。その視線は窓の外に向いたままだ。言われるがまま、遥たちも外に目をやる。
「あの人、うちの学校の生徒じゃないよね」
遥の瞳に映ったのは、校門に立ち尽くす一人の男性の姿だった。彼はやがて何かを取り出すと、玄関の方角へと歩いていった。
「あれって―――」
「?遥、あの人に見覚えあるの?」
じっと凝視したまま動かない遥に、友人は問いかける。しかし、遥はそれには答えなかった。
「ごめん、ちょっと行ってくるね!」
「ちょっ、遥!?」
遥は友人達には見向きもせず、大急ぎで教室を出ていった。取り残された3人は、揃って顔を見合わせる。暫くして、そのうちの一人が口火をきった。
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