第35話

「あれから、もう4日目か...」

今日一日安静にしていることを恵美に言われ、彼は部屋にいた。朝からずっと籠りきり。そのため久遠は暇を持て余していた。外は絶好の外出日和で、余計に彼の気を逸らせる。

『それにしても、妙だな...』

黒スーツの姿が一向に現れる気配がないことに、彼は疑問に思っていた。―――逃げ出すときには、すぐさま追ってきたのに。あの日以来、全く姿を見かけないのだ。実は密かに監視されているのでは。そう思うと気が気ではない。

『簡単に諦めてくれるような性格じゃないからな、あの人は』

そう、"あれ"はまるで蛇のようだ。そう久遠が思慮に耽っていると、ドアの向こうから恵美が現れた。彼女は、なにやらこちらに手招きをしている。

「久遠くん、ちょっといいかしら?お願いしたいことがあるの―――」


***


「よぉし、今日の授業はここまで!」

青いジャージを着た恰幅の良い男が、威勢よく声を発すると生徒らは嬉々とした表情で立ち上がった。

「きりーつ、礼!」

「ありがとうございましたー!」

一斉に生徒達が頭を下げる。ジャージ姿の男性も笑顔で生徒達に軽く頭を下げると、さっさと教室から出ていった。

「やっと午前中の授業が終わったね~」

「うん」

遥は隣の席の女子に返事をすると、鞄を机の上に置いた。辺りにはパンや弁当の香りが広がり、教室は生徒達の声で賑やかだ。遥とその友人らしき彼女は、窓側の席で机を囲んでいた。教室の一番端の席。いつでも景色が見られ、なおかつ教師の目が届きにくいこの場所が、遥のお気に入りだった。

「そういえばさ、アイツ、今日も授業サボったよね」

「うん...でも、前はあんな人じゃなかったのに」

だよな~、と、友人は相槌を打つ。遥は、あるクラスメイトのことを気にかけていた。真面目で勤勉だった"彼"が豹変したのは、ごく最近のことであった。

『...』

だが、遥は"彼"が変わってしまった心当たりが、全く見当たらないわけではなかった。

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