第13話

「あら久遠君。昨日はよく眠れたかしら?」

「おはようございます。...はい、おかげさまで」

表情がかたいまま久遠は礼を述べた。リビングにいた彼女は、ティーカップを片手にソファーでくつろいでいた。手元には、今日の新聞らしきものがある。

「それなら良かったわ。昨日遥から聞いたけれど、部屋を訪ねたときにはもう寝ていたみたいだから...」

疲れはとれたかしら?と彼女は問う。

「えぇ、溜まっていた疲れもとることができました。ありがとうございました」

そうか、布団が掛かっていたのは彼女のおかげだったのか。

「そういえば、遥さんの姿が見えませんね」

「そうなの...これから朝ご飯なのに、降りてこなくって。私が支度をしている間に、呼びに行ってもらえませんか?」


***


「確か、ここが遥さんの部屋だったな...」

再び2階に戻った彼は、ドアを前に立ち彼は、コンコン、とノックを数回した。


しかし、中からは返事が返ってこない。

「...もしもし。遥さん、起きてる?」

こちらから声を掛けてみたものの、やはり反応はない。部屋に入るべきか。だが、彼女が眠っている可能性がある為、それは気が引ける。

「でも、起こしてきてって頼まれたしな...」

板挟みとはまさに、このことだろうと久遠は思った。

「...遥さん、入るよ?」

結局彼は恵美の依頼を優先し、内心詫びを入れつつ遥の部屋のドアを開いた。

『暗い...』

部屋は光が殆ど見当たらず、陰鬱とした空気が漂っていた。明るい性格の彼女からは、想像がつかない場所だ。暗くてよく分からないが、右側の奥がベッドだろう。久遠はそっと足を忍ばせる。

「ん...久遠、さん...?」

名前を呼ばれ、久遠は一瞬ドキッとした。ドアを開けた際に起きたのだろうか、桜色のパジャマを着た彼女は、眠そうに眼を擦っている。瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。

「おはよう、遥さん」

「おはよう...ございます」

遥はそこまで言うと、ハッと我に返り手に持っていた物を隠した。

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