第41話
かべる。だが、遥の表情は曇ったままだ。そんな彼女に、久遠は早くここから立ち去るよう言う。遥は暫し立ちすくんでいたが、友人達に手を引かれ公園から立ち去っていった。黒髪の少年の瞳は、一瞬遥を映していたように見えた。
「...やけに素直に返してくれましたね?」
意外とあっさり要求を呑んだ少年に、久遠に疑心が生じる。そんな訝しげな顔をしている久遠に、彼は予想外の返答をした。
「―――お前、なんか普通の人間と違うんだろ?だから、それを確かめるために外野に消えてもらったんだ」
興味津々といった顔で、久遠の瞳を見る。その表情は先ほどとは打って変わって無垢なもので、久遠は内心戸惑った。人質で脅す。その考えはなかったのだろうか。あるいは、あえて―――
「...意味を解って言っているのですか?」
久遠の力。それは、歪められた運命を正しい道へと導く力。少年は、恐らく冬華と同じように、何者かに運命を捻じ曲げられてしまっている。瞳の力を使えば、彼は―――
「ああ、意味は解ってるさ。なんたって、"あいつ"から聞いたからな」
さあ、見せてみろよ。黒髪の少年は自嘲気味に言うと、久遠の眼を真っ直ぐに捉えた。
「―――分かりました」
久遠は彼の決意を受け取ると、翡翠色の左瞳で黒い瞳を捉える。そうして数秒後、少年は遊具にもたれかかり動かなくなった。久遠は金髪の少年らを警戒していたが、どういう訳か危害を加えてくる気配はない。若干の不安はあるものの、久遠は意識を手放した。
***
瞼を開くと、そこには同じく無数の時計が宙に浮いていた。時を刻む音のみ聞こえる、灰色の世界。周囲を見渡すと、やはり一つだけ不規則な針を持った時計があった。
『...』
久遠は深緋色をしたそれに近づき、そっと触れる。すると、久遠の脳裏に少年の記憶が映された。しかし、そこに記憶の持ち主の姿がない。...今度は、どうやら少年の目線からのものらしい。少年の眼を通して見る光景。そこから見えるのは、多くの制服を着た生徒―――そして、遥の姿だった。
『どうして、みんな。どうして』
少年の悲痛な心の叫びとともに、視界はせわしなく動く。少年を取り囲むは、見覚えのある金髪の少年らの姿。
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