第23話

久遠が声を掛けると、冬華はゆっくりと目を覚ました。まだはっきり覚醒していないせいか、彼女はぼんやりとした表情をしている。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい...」

冬華がそう返事すると、久遠は良かったとその場を離れようとした。

「!!待って...」

久遠が振り向くと彼女は、申し訳なさそうにぽつりぽつりと話をし始めた。

「ありがとう、ございます。...あまりよく覚えてないけど、貴方が私を助けてくれた事は記憶に残ってる」

『...』

久遠は黙って、俯く彼女の話を聞く。

「私、みんなに迷惑かけちゃった...私はただ、自分の歌がみんなを元気にできたらって...思ってただけなのに...」

ばかだよね、泣き出す冬華に、久遠は慰めるように語る。

「...泣かないで下さい。その気持ちはもう、彼らに届いているようですよ」


久遠にテラスの下を覗くよう言われ、彼女はフェンスから身を乗り出す。そこには、"冬華さんLOVE!!"と書かれた大きな布が靡いていた。駐車場には大勢の人が押し寄せていて、冬華の名前を叫ぶ人や励ましの声も、拡声器を通して聞こえてきた。

「みんな...どうして」

冬華の声は微かに震えている。

「...僕の役目はここまでです。運命を修復した為、貴女の活動は初めからやり直しになりますが...」

貴女ならきっと大丈夫。そう冬華に言うと、久遠は振り向くことなく去っていった。

「...すっかり忘れていた、あの日の記憶を思い出させてくれたのも、キミなんだよね...ありがとう」

冬華はそう呟くと、涙を拭いて駐車場に集まった人々に手を振った。

―――私、彼のおかげで気づいた。...自分の夢は、自分自身の力で叶えなきゃダメだって。...たとえ苦しくても、辛くても、逃げちゃいけない。いつか必ず、夢が叶う日は来る。努力が実る日が訪れるって...私、信じてる。

"ありがとう、久遠君"

一粒の白い光が、夕焼けに消えた。

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