第六話 一気にCランクへ!
「おう、しょ……うぐぅううううううっ!?」
上の口も下の口も、もはや限界って感じだな。
それもこれも、我が固有スキルによるものだ。
「俺の《オール・エラー》は……対象の内部に、特定の性質を付与した極小生物を、送り込むことが出来る」
その力で以て、先刻述べた通り、黄色ブドウ球菌の性質を付与した極小生物を相手の体内へ送り込んで、増殖させた。
これは何も、特殊な細菌ってわけじゃない。
黄色ブドウ球菌というのは、人の皮膚や口、鼻の中にも存在する、実にポピュラーなものだ。
ゆえにこの細菌は、ある意味、人間にとって最大のパートナーといえるだろう。
しかしながら。
黄色ブドウ球菌は、人間に対して友好的な存在では、断じてない。
この細菌はひょんなことで簡単に増殖し、日常生活において、至極アッサリと体内に侵入してくる。
その結果は……御覧の通り。
「ぐぅうううううううッ! え、Aランク、冒険者の、オレがッ! こ、こんなッ! こん、なぁあああああああああああああ――――――あっ」
黄色ブドウ球菌というのは、人間のパートナーでありつつも友ではなく、むしろ敵と呼ぶべき存在である。
奴等は時として、人間の尊厳を抹殺し、社会的な生命さえも奪い尽くす。
そう。
目の前で蹲る、試験官のように。
「お望みとあらば……もっと酷い目に遭わせて差し上げますが?」
「ひぃっ!? ま、負けだ! オ、オレの負けでいい!」
「では……とりあえず、彼女に謝罪していただきましょうか」
「は!? なんで魔族、なん、ぞ、にぃいいいいいいいいいいいいいいッ!?」
おめでとう!
黄色ブドウ球菌はノロウイルスに進化した!
「おげぇええええええええええええっ! わ、わかったぁ! あやま、うげぇえええええええええええええええっ!」
それから。
解毒してやった後。
「ほんっとうに! 申し訳ございませんでしたぁああああああああああああッ!」
DO☆GE☆ZA☆
リスティーの目の前で地面に額を擦り付ける試験官。
そんな彼を前にして。
「エ、エグいですにゃ、ゼノス様。さすがのウチも、引きますにゃ」
「え~? 大切な家族を侮辱されたらキレるでしょ、普通」
「……その言葉と気持ちは、まぁ、素直に嬉しい、ですにゃ」
そんなわけで。
俺は先んじて試験に合格し……
リスティーもまた、
「にゃっふぅううううううううううううううううッ!」
「ごべらッ!?」
稲妻のような踏み込みと、戦慄の右ストレート。
その一発で以て試験官を瞬殺。
我が家のメイド達は特殊な訓練を受けており、全員が全員、超一級品の戦闘能力を有している。
彼女の相手もAランクの冒険者だったようだが……
我が家のメイド長(規格外のババァ)をして、バケモノと言わしめるほどのリスティーに、敵うはずもない。
かくして。
俺とリスティーは二人同時に、Cランクへと昇級したのだった。
「ゼノス様。記念すべき最初のクエストですにゃ。しっかりと考えて選ぶんにゃよ?」
「え~? ふつ~に一番報酬が高いやつでよくない?」
ギルドの受付付近へと戻り、クエストボードを眺める。
Cランク用のそれへ、俺はざっと目を通し……
「おっ、これが一番、報酬金が高いな」
「にゃににゃに……カオス・リザードの討伐、ですかにゃ」
王都周辺に存在する、衛星都市の一つ。
その周辺にカオス・リザードという中級の魔物が出現したという。
このままだと通行人がメッチャ被害に遭ってヤベーから、さっさと駆除してくれ、と。
クエストの内容はそんな感じのやつだった。
「仕事の場所もここから近いし……これでいいよね? リスティー」
「まぁ、及第点ってとこですかにゃ」
逆にどんなクエストだったら満足なんだよ。
とまぁ、そんなツッコミを内心で入れつつ、移動。
まずは馬車乗り場へ向かい、王都の外へ。
そうして馬車が行ける範囲まで連れて行ってもらい……
件のカオス・リザードが出没するという、林道へ到着。
「う~ん、到着するまでの時間を、計算に入れてなかったなぁ」
「もう夕暮れ時ですにゃ。近くの都市に入って、宿を――」
リスティーが言葉を紡ぐ、その最中。
「ぐ、ぁ……!」
小さな悲鳴と、大きな破壊音が、耳朶を叩く。
「時間ギリギリって感じだな」
「行きますにゃ? ゼノス様」
「あぁ、もちろん」
地面を蹴って、木々の間を駆け抜ける。
その末に、現地へと到着し――
俺達は、標的であるカオス・リザードと、
「く、う……!」
目を覆いたくなるほどの重傷を負った、美女。
そんな両者を前にして。
俺は、ボソリと呟いた。
「――早速、人助けのチャンス、だな」
~~~~あとがき~~~~
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