第一八話 デカいマフィアがケツモチになってくれるらしい


「あっ……そ、そういやオレ、カネ持ってないん、だけど……」


「治療費は要らないよ。子供から巻き上げるほど、落ちぶれちゃいないし」


「えっ……!?」


「その代わり、君達に仲間が居るんだったら、そいつらにもこの治療院のこと、宣伝しといてくれよ。腕のいい治療師が居るってさ」


「う、うん……!」


 またもや涙を浮かべ始める少年に、俺はふと思い至り、


「そういえば君達、名前はなんていうんだ?」


「あ、あぁ。オレはセブルスで、妹はサリア」


 ……ん?


 あれ?


 聞き覚えがあるぞ。

 えっと、確か、そう。

 原作で主人公にボコられたマフィアのボスが、そんな名前だったような。


 ……まぁ、同姓同名って可能性もあるし、今は捨て置こう。


「さて。子供達から代金を取るつもりはありませんが……貴女方にはキッチリと支払っていただきますよ」


 牛角族の少女と、寝台の縁に座る大男へ、目を向ける。


「あたし等のこと、なんとなしに察してるわよね?」


「えぇ。暴力を生業となさっているのでしょう?」


「マフィア相手に堂々と代金請求するだなんて、ほんっといい度胸してるわね」


 勝ち気に微笑む牛角族の少女。

 それから彼女はデカい胸を張って、


「あたしの名は、ラヴィア・ゼルトール。こう見えてもね、ファミリーのボスをやらせてもらってるの」


「ほう。では、そちらの方は若頭で?」


 大男に水を向けると、彼はスッと立ち上がって一礼し、


「申し遅れやした。オレぁゲルト・ホフキンスといいやす。おっしゃる通り、ゼルトール・ファミリーのカシラやらせてもらってます。以後、お見知りおきを」


 年端もいかないボスと、それを支える大柄の若頭、か。

 二人の名前も、原作で出てきたような気がするんだけど……

 う~ん、やっぱりどうにもうろ覚えで、思い出せないな。


「……ゼルトール・ファミリーの名前を聞いてもビビらないあたり、モグりなのか、あるいは」


 こちらを「じぃ~~」っと見つめてくるラヴィアへ、俺は肩を竦めて見せた。


「ただのモグりですよ。王都に来たのも、つい最近ですし」


「へぇ。最近、王都に来た、ね。……だったらどうして、スラムなんかに城を構えたの?」


「……そこについては、海よりも深い事情がありましてね」


 王女殿下の嫌がらせ(仮)ですと正直に言ったとて、どうせ信じはすまい。

 だから意図的にボカしたわけだけど。


「ふぅん。まぁいいわ。あんたが悪さするような姿なんて、想像出来ないし」


「……それは、えっと、アレですか? 大陸の半分を吹っ飛ばしたりするようには見えないと、そんなふうに解釈しても?」


「え、えぇ。そうだけど」


「人間に絶望した結果、世界を滅ぼそうと考えたりするような、そういうタイプの男には見えない、と?」


「いや、どんだけ自分のこと卑下してんの!? ていうかそんなことするように見える奴が居てたまるかっ!」


 居るんだよなぁ、それが……。

 今から一〇数年後のゼノスが、まさにそういう奴なんだよね……。


 まぁ、ともかく。


 俺は順調にラスボス・ルートから外れているらしい。

 主観ではなく客観的な評価なので、確度は高いだろう。


「ふふふふふ……! お客さん、今回の治療費は、タダでいいですよ……!」


「はぁっ!? な、なによ、いきなり!?」


 わけがわからない。

 そんな目をこちらへ向けた後、ラヴィアは大きく嘆息し……


「はぁぁぁぁぁ……まったく、とことん大物ね、あんたは……」


 それから彼女は調子を取り戻したようにニヤリと笑い、


「でも! そういうところが気に入った!」


 ビシッと俺を指差して、ラヴィアは言う。


「この治療院! ウチがケツを持ってあげるわ!」


「ほう。それは大変、ありがたい話ですが」


「皆まで言わなくてもいいわよ! みかじめなんて要求しないし、むしろ資金援助してあげる!」


「……よろしいので?」


「えぇ、もちろん! あんたにはゲルトを救ってもらった恩があるし……子供の味方がスラムには必要だって、ずっと思ってたから、ね」


 なるほど。

 この子は完全な大人のマフィアってわけじゃないのか。

 であれば……

 つるんでも、問題はないな。


「貴女の申し出、ありがたくお受けいたします。……それで、こちらは見返りに何をお支払いすればよろしいので?」


 いくら大人になれていないとはいっても、マフィアはマフィアである。

 みかじめ要求はナシ。資金援助すら行う。

 ここまでの好条件が、無償であるはずもなく。


「ウチの組員をね、格安で治してほしいの」


「……えぇ。それについては、まったく問題はありませんが」


 ラヴィアの言葉に裏がある。

 そう感じ取ったがために、俺は、


「今後、ファミリーの皆さんが大勢、怪我をなされる、と?」


「うん。そこはもう避けようがない」


 断言した後、ラヴィアはゲルトへと目をやった。


「へい。オレの方から、事情を説明させていただきやす」


 彼の言葉を聞いたなら、きっと面倒ごとに巻き込まれるハメになるんだろうけど……

 こんな場所で治療院を開いた時点で、厄介な目に遭うことは確定している。


 よって俺は状況を受け入れ――



 ――自ら、面倒ごとに身を投じるのだった。






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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