第一九話 デカいマフィア達が抗争してるんだって! 怖いね!


「ここらはウチとルキアーノ・ファミリー、二つの組織で仕切ってたんでさぁ」


 滔々と語り出したゲルトの声に、俺は耳を傾け続けた。


「やっこさん等とは五分の盃交わした仲でね。これまではずっと、二大巨頭としてスラムを治めてたんですが……」


 相手方のボスが代替わりしてから、徐々に雲行きが怪しくなっていったという。


「表面的には、なんの問題もありやせんでした。こっちのシマを荒らすこともなく、組員と揉めることもなく。……ただ、妙な動きを続けてはいたんでさぁ」


 そう述べた後、ゲルトは腰元に提げた武装……杖剣をポンと叩き、


「オレ等は見てくれこそこんなモンですが……大して強くはねぇんですよ。生まれも悪けりゃ学もねぇ。稼げるだけの腕っ節もねぇってモンだから、こんな道を歩いてるわけでね」


 だからこそ。

 マフィア達の大半は、杖剣に頼る。


 この武装は設定された魔法限定ではあるが、ちょっとした精神集中の技術さえ習得したなら、誰でも魔法が発動出来るという代物だ。


 まぁいうなれば、元居た世界における拳銃みたいなものだな。


「オレ等は大概、こいつで身を守るようにしてやす。それ自体は当然の権利……なんですがね」


 ここ最近になって、ルキアーノ・ファミリーが組員に配給し始めたそれは、自己防衛を謳うにはあまりにも行き過ぎたものだったという。


 元居た世界で例えるなら……

 ピストルで十分なはずの武装を、アサルトライフルに変えてきた、みたいな感じだろうか。


「それはそれは……あまりにも、怪しいですね」


「えぇ。ですから、オレもお嬢も、オヤジに警戒を促したんでさぁ。……けど、オヤジは」


 ゲルトの言葉を遮るような形で、次の瞬間。


「ルキアーノを信じろの一点張りで、ぜんっぜん、言うことを聞いてくれなかった……!」


 拳を握り締めるラヴィアの美貌には、悔恨と怒気が宿っていて。


「聞く耳ってものがないのよ、パパは……! だから、あんなことに……!」


 じわりと瞳に涙が浮かぶ。

 なるほど。

 皆まで説明されずとも、彼女等の状況を把握することは容易だな。


「察するに……ゼルトール・ファミリーの皆さんは、ルキアーノ・ファミリーから奇襲を受けた、と。そういうことでしょうか?」


 首肯を返すゲルトとラヴィア。


 おそらくはそのタイミングで、組織の長にしてラヴィアの実父は死亡し……

 ラヴィアが跡を継ぐと同時に、ルキアーノ・ファミリーとの抗争に突入した、と。

 そんなところだろうか。


 ……治療院を開くには最低最悪なタイミングだな、マジで。


「抗争が終わる目処は?」


 こちらの問いに、ゲルトが首を横へ振って、


「今のところは、なんとも」


 状況をあえてボカしたゲルト、だが。

 組織のボスであるラヴィアは肩を竦めつつ、自分達の立場を明言した。


「ぶっちゃけヤバいってのが、正直なところよ」


 まぁ、そうだろうな。


 彼女がここに居るということは即ち、敵方にボスと若頭がハジかれたということになる。

 俺が居なければ、少なくとも若頭……ゲルトは命を落としていただろう。


 そうした現状を思えば。

 彼女等の側に付くのは泥船に乗るようなもの、なんだろうけど。


「……ここまで聞いても、逃げようとはしないのね?」


「えぇ。今のところは、問題がありませんから」


「……ウチが泥船だって知ってなお、ケツを持ってもらおうとする理由は?」


 この問いかけに対し、俺はセブルスとサリアを見て、


「貴女は子供に優しい。こちらとしては、それだけで十分ですよ」


 微笑を浮かべて見せると、ラヴィアは豪快に笑って、


「あははははははっ! いいわね、あんた! とことん気に入ったわ!」


 これに対し、ゲルトも僅かに口元を緩ませながら、


「同感です、お嬢。先生は幼いながらも、極道顔負けの胆力をお持ちだ」


 二人の表情は今や、ここへ来た当初とは別人のように明るく、


「あんたが居れば、もしかしたら……!」


「ルキアーノの連中に、目に物を見せてやれるんじゃねぇですかね」


 ……ケツを持ってもらう以上、治療師としては頑張らせてもらうけどさ。


 鉄砲玉とかはやらないよ? 絶対に。


 ……まぁ、二人は俺の正体を知らないわけだから、そんなことを頼んだりはしないか。


「これから、よろしく頼むわね! えっと……そういや、あんた、名前は?」


「あぁ、失礼。申し遅れました。俺はゼノス・フェイカーといいます。こちらは助手の」


「リスティー・エレクシールですにゃ」


 自己紹介を終えた後、ラヴィア達は所用があるとのことで、院内から去って行った。


 それからすぐ。


「あ、あの、さ」


 セブルスがこちらを見つめつつ、


「あ、あんたのこと……ゼノスの兄貴って呼んでも、いいかな?」


「うん。いいよ、別に」


「~~っ! やった!」


 なぜ喜ぶのかはわからんが、子供の笑顔は気持ちのいいものなので、とにかく良しとする。


「ていうかそろそろ昼時だよな。リスティー、食事を用意してくれないか?」


「にゃ~。当然、四人分、ですにゃよね?」


 首肯を返した後、セブルスへ目をやって、


「食べれないものってあるか?」


「ないない! 食わせてもらえるってんなら、なんでもいいよ!」


「いや。人によってはさ、食べちゃいけないものってのがあるんだ」


 アレルギーとかね、怖いからね。


 しかしどうやら、二人とも特定の食物アレルギーなどは持っていなかったようで。


「サリアを二階に運ぼう。少々手狭だけど、客間があるから」


 この治療院は住処を兼ねてもいる。

 二階の空き室を、二人の部屋ということにしよう。


「何から何まで……! 兄貴は聖者様の生まれ変わりに違いねぇや……!」


 サリアを背負いながら、セブルスがまたまた男泣きし始めた。


 かくして。



 悪役(小ボス)となるやもしれぬ少年と、その妹を交えたスラム生活が、幕を開けたのだった――






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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