閑話 闇より出でし、“奇怪なる七番目”


 レスタニア地方中部。

 地平線が広がる平野の只中は今、地獄のような有様となっていた。


 セラスティア王国が擁する人間を中心とした軍勢。

 ゾディアック帝国が擁する魔族を中心んとした軍勢。


 両軍が衝突したことにより、平野は血の色へと染まりつつあった。


 しかして。

 魔王・ベルファストの子息、ハルケギアからしてみれば。

 悲鳴、苦悶、叫喚が織り成す悪夢の調べはまさに、至高の芸術であった。


 ゆえに、彼の場合は目的と手段が完全に逆転している。


 なんらかの目的を達成するために戦へ臨むのではない。

 戦へ臨むために、なんらかの目的を立てる、およそ狂人と呼ぶべき存在であった。


 そんなハルケギアが今、実行していることもまた。

 目的と手段が、あべこべになっている。


「ぎぃああああああああああああああッッ!」


 夜闇の只中に、男の悲鳴が響き渡った。

 彼は王国に属する正規兵の一人。

 捕虜として捕らえられ、ハルケギアが手ずから、拷問を行っている……わけだが。


「も、もう、やめてくれ……! 知ってる情報は、全部、吐いた……!」


 ズタズタに斬り刻まれた顔面。

 もはや光を失った瞳から、血が混ざった涙が零れ落ちる。

 そんな様を見つめながら、ハルケギアは爬虫類めいた面貌に笑みを宿し、


「事前に教えておいた方がよかったかなぁ。これは有益な情報を聞き出したいとか、そういう目的のもとに行われていることじゃないんだ」


「は……?」


「これは僕の趣味であって、仕事じゃない。というかそもそも……お前等みたいな虫ケラ潰すのに、情報なんて要らないんだよね」


 そう口にしてから、ハルケギアは右手に握る細剣で以て……

 再び、捕虜の体を撫で切りにする。


「が、ぁああああああああああああああッッ!」


 皮膚と肉片とを、薄く切り落とす。

 それを何度も何度も繰り返すことで……

 長時間にわたり、地獄の苦しみを味わわせる。

 ハルケギアが好んで行う拷問法の一つであった。


「ヒャハハハハハハハハ! そうだよ! その顔が! 見たいから! その声が! 利きたいから! 僕はお前等を! 痛めつけるんだよぉおおおおおおおおおッ!」


 刻む。刻む。刻む。刻む。

 やがて捕虜は悲鳴を上げることさえ、出来なくなって。


「はぁ~~~~……よし、つぎ行こうか」


 視線を横へ向けるハルケギア。

 そこにはまだ無傷なままの捕虜が、拘束された状態で転がされていて。

 一連の様相を見せ付けられていた彼は、全身から様々な体液を垂れ流し、自らの恐怖を体現している。


 そうした様相はハルケギアの嗜虐心を大いに刺激したが……

 しかし、ここで。


 ふと彼は気付く。


「……妙に、静かだな」


 自陣は常に、笑い声と悲鳴で溢れかえっている。


 前者はハルケギアによるもの、だけではない。

 捕虜の大半はオモチャとして兵士達へ贈与しており、彼等はハルケギアと同様に、思い思いの楽しみ方をしている。


 およそ、男は嬲り殺し、女は慰み者といった塩梅であるが……

 そうした声や音が、完全に消え失せている、


「これは……」


 ある種の予感を覚えたハルケギアは、拷問のために設営された幕舎から出て、外の様子を検めた。

 その瞬間。


「ッ…………!」


 ハルケギアは知る。

 予感が、真実であったことを。

 しかして。


「皆殺しにされたわけでは、ない、のか……?」


 地面に倒れ込んでいる、無数の兵士達。

 無事な者はおよそ一人たりとて存在しないが……


 皆、高熱を出したように呻いており、命を奪われてはいないようだった。


 いや、あるいは。

 死んでいないことが逆に、残酷な仕打ちとも取れる。


 兵士達は発熱しているだけでなく、嘔吐や下痢にも悩まされているようで……

 上からも下からも汚物を垂れ流し、堆積したそれらで溺れかけている様は、実に哀れなものとして映った。


 そして。

 そんな惨状を、創り出したのは。


「ッ…………!」


 夜闇から湧き出たかの如く。


 ハルケギアの眼前に顕現する、一人の侵入者。


 漆黒の装束を纏い、暗黒色の仮面を装着した、その存在へ、ハルケギアは誰何する。


「何者だ、貴様……!」


 これに対し、相手方は。



 その名を、口にする。


 偽りでありながらも、真名と呼ぶべきそれを。

 一族の伝統に従い、父が贈った、殺人者としてのそれを。


 まるで、死刑を宣言するかのように。



「――ストレンジ・セブン奇怪なる七番目






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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