暗殺稼業の悪役貴族(ラスボス)に転生した俺、「状態異常スキル」を応用して「回復魔法使い」を装う ~人殺しではなく人助けをしまくった結果、「聖者」になった。ついでに「陰の実力者」にもなった~
下等妙人
第一話 ラスボスの状態異常スキルは凄かった
中ボスかと思いきや実はラスボスだった。
どうやら俺はそんなキャラクター……
ゼノス・ファントムヴェインに転生したらしい。
それも、劇中から一〇年以上前の時期に。
朝。
自室の映し鏡を前にして、俺は苦悩を吐き出した。
「このままだと、人殺しを強要される……!」
ゼノスの生家ファントムヴェインは、暗殺稼業によって成り上がったヤベー公爵家だ。
何か特別な事情がない限りは一族の誰もが殺し屋になることを義務づけられ、それに反しようものなら容赦ない粛正が待ち受けている。
だがそうかと言って、自らの運命を受け入れたなら、ラスボスとしてのバッドエンドへ直行するハメになるのではなかろうか。
いや、そうでないにしても、人殺しなんて絶対にやりたくない。
「どうしたもんかなぁ……」
あれこれ考えを巡らせる。
状況打破のヒントが原作の知識にあるのではないかと、そんなふうに思いながら。
「つっても……ラタファンにハマったのって、もう一〇年近く前だしなぁ……」
ラタトスク・ファンタジア。略してラタファン。
古き良きコマンド式RPGである。
ゲームシステムは実に古くさいものだが、シナリオは控えめに言って神。
学生時代にドハマりした青春の一本……なのだけど。
設定資料集やコミカライズ、ノベライズに至るまで全て購入し、熟読したのは、もう遙か前のこと。
その内容を一言一句覚えているはずもなく、状況打破のヒント探しは難航を極めた。
が――しばらくして、ようやっと。
「あ、そうだ。もしかしたら」
ある設定を思い出し、一縷の希望を抱いた――そのとき。
「ゼノス様ぁ~! おはようございますにゃ~ん!」
明るい声を響かせながら、一人の美女が入室する。
白銀の美髪と、頭頂部から伸びる猫耳が特徴的な彼女は、我が家に仕えるメイドの一人、リスティー・エリクシール。
……というのは主にゼノスの記憶であって、原作情報から引き出したわけじゃない。
この子は確か、ゼノスを主人公とした
やはりいかんせん古い記憶なので、詳細は思い出せないが……
かなり、重要なキャラだったような。
「にゃにゃ~。ゼノス様、今日はお早いお目覚めですねぇ~。怖い夢でも見ちゃったのかにゃ~ん?」
忠誠心に溢れたメイドというよりかは、良き姉貴分として接してくる。
そんなリスティーはこちらへと近付いてきて。
「そんじゃ、お着替えいたしますにゃ~」
服を、脱がせてきた。
「っ……!」
「ん~? どうかしたかにゃ~?」
「い、いや。なんでもない」
お貴族様というのは、着替え一つ取っても使用人にやらせるものだ。
それ自体は別にいい。
でも、この光景は、かなり……!
「んん~? もしかしてゼノス様ぁ~……思春期に突入したにゃん?」
「はっ!? な、なんで、そんなこと……!?」
「いや、だって。さっきからずっと、ウチのおっぱいガン見してるし~」
我が家のメイド達は、主に当主たるライゼル・ファントムヴェインの趣味により、改造されたメイド服を纏っている。
それは実に露出度が高い設計となっており……
胸部に至っては、ビキニも同然の形状であった。
ゆえにリスティーの豊かな乳房と谷間が、デカデカと丸見えになっていて。
朝ということもあってか、体の一部が反応しそうになってしまう。
「にゃ~、ゼノス様もそんな年頃になったかぁ~。リスティーは嬉しく思いますにゃ~」
それから彼女はイタズラっぽく笑って。
「思春期突入記念としてぇ~、ウチのおっぱい、好きなだけ揉んでいいにゃよ~?」
無意識のうちに、俺は喉を鳴らしていた。
掌に収まり切らないほどのビッグ・サイズ。
ずっしりとした重量感。
触れずとも理解出来る、素晴らしい柔軟性。
これを、好きなだけ……!
「ほ、ほんとに、いいのか……!?」
「どぞ~」
背筋を伸ばして、乳房を見せ付けるかのように上体を反らせる。
そんなリスティーへ、俺は両手を伸ばし――
ついに双丘へ辿り着こうという、その瞬間。
「は~い、時間切れ~!」
ニマニマと笑いながら、こちらの手を掴んでくるリスティー。
「残念でしたにゃ~。もうちょっとで、柔らかスライムおっぱいを揉み揉み出来たのに~」
……あぁ、そうだ。リスティーとは、こういう奴だった。
俺をからかってひとしきり笑うと、彼女はこちらの着替えを再開し、
「今日はどうしますかにゃ~? 一応、休暇日ってことには、にゃってますけど」
さっきまでの一悶着については、もう忘れてしまおう。
俺は意識を切り換えつつ、リスティーに答えを投げた。
「ダンジョンでの戦闘訓練に、付き合ってくれないか?」
「にゃ~! おやすいごようですにゃ、ゼノス様!」
ファントムヴェインは殺し屋の一族である。
ゆえに戦闘能力を磨くための設備が、屋敷の至る所に設けられていた。
地下に位置する人造ダンジョンも、その内の一つだ。
俺は着替えを済ませ、朝餉を摂った後、リスティーと共にそこへ足を運ぶ。
四方八方、石造りの空間。
ここは通常のダンジョンと同様に、魔物が徘徊する危険地帯となっている。
そんな只中を銀髪猫耳メイドと歩きつつ……
「よし。あいつで、試してみるか」
リザードマンを発見。
奴に対して、まずは何も考えることなく、自らの力を振るう。
「ファイア・ボール」
下級の攻撃魔法、だが。
さすが未来のラスボスなだけあって、最下等の魔法すらかなりの高威力だった。
結果、リザードマンはワンパンで消し炭に。
「にゃにゃ~。やっぱ一階層程度の魔物じゃ、ゼノス様の訓練にならないにゃ~」
まさにその通りだったので、さっさと深い階層にまで潜っていく。
そうした道中にて、幾度かの交戦を果たしたわけだが……
やっぱりゼノスは強い。
攻撃魔法の類いは少年期の段階で完成形にまで至っている。
そして、そこに加え、
「《オール・エラー》」
ゼノスは固有スキルという、この世界における必殺技的なモノも持ち合わせている。
彼の固有スキル、《オール・エラー》の効果を一言で説明するなら、「究極の状態異常スキル」ってところか。
どのような存在が相手でも、確実に状態異常を付与出来る。
その力で以て、今、巨大なグランド・ドラゴンに麻痺を付与した
「ギィ、ガ、ア……」
指一本、動かせない。
そんな姿にリスティーは口元を笑ませて、
「すっごいにゃゼノス様! そのお歳でグランド・ドラゴンを完封だにゃんて! 専属メイドのウチも鼻が高いにゃ~!」
それから彼女はこちらへと向き直り、
「トドメはどうされますかにゃ? いつもみたく、毒でジワ殺し? それとも今回は、魔法の練習台にしますかにゃ?」
この問いに対して、俺は次の答えを返した。
「ちょっと試してみたいことがある。もし上手くいったら……瞬殺出来るかもしれない」
「にゃっ? グランド・ドラゴンを、瞬殺?」
出来るわけがない。
リスティーの顔にはそんな文言が浮かび上がっていた。
それも無理からぬ話だ。
グランド・ドラゴンの耐久力はこの人工迷宮において最強を誇っているのだから。
凄腕の殺し屋である兄姉達でさえ、この魔物を瞬殺というのは難しい。
だが、それでも。
思い出した設定と、前世にて蓄えた知識が、合わさったなら。
「……《オール・エラー》」
俺はイメージした。
自身に宿った固有スキルの、詳細を。
ゼノスが有する《オール・エラー》は、単なる不思議パワーで状態異常を付与しているわけではない。
微生物や細菌といった「極小生物」を対象へ送り込み、それをコントロールすることで、特定の現象を引き起こす。
そして、その極小生物には……
自らが知りうる生物、あるいは物質の性質を、付与出来る。
であれば。
グランド・ドラゴン脳内へ、人食いバクテリアの性質を付与した極小生物を、無数に送り込んだ場合、どうなるか?
答えは――
「ギィアッ」
この通り。
脳を瞬時に食い尽くされたことで、グランド・ドラゴンは絶命へと至った。
巨体が地面へと沈み、重低音が鳴り響く。
そんな中、リスティーは目をまん丸に見開いて。
「う、うっそにゃ~ん……!?」
唖然となったのも束の間、弾かれたようにこちらへと目をやると、勢いよく口を開いた。
「な、ななな、なにをしたんですかにゃ!? ゼノス様! ウチに隠れて、必殺技の特訓でもしてたのかにゃ!?」
興奮気味に肩を揺らすリスティー。
ついでにおっぱいも揺れまくるリスティー。
そんな彼女に種明かしをしてやると、
「にゃにゃにゃ……! スキル効果の拡張、ですにゃね……! そのお歳で、そこまでのレベルに至るだにゃんて……!」
瞳を涙で潤ませながら、リスティーは感激した様子で言葉を紡いだ。
「素敵ですにゃ、ゼノス様! リスティーはゼノス様にお仕え出来て幸せですにゃ! きっとゼノス様は歴史に名を残すほどの殺し屋として――」
「いやいやいや。ならないよ? 殺し屋になんて」
「――にゃにゃん?」
何を言ってるんだコイツは、みたいな顔で、こちらを見る。
そんなリスティーへ、俺は自らの目標を語った。
「御家や国家に貢献する方法は、殺人以外にもあると思うんだよ」
「にゃ~……具体的には、どうやって?」
この問いに対する答えは、次の通り。
「俺はこの力を応用して――――殺し屋ではなく、治療師になる!」
~~~~あとがき~~~~
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