第三一話 共闘 そして――
ラタトスク・ファンタジアのシナリオは、五つの章で構成されている。
その中において、魔王・ベルファストは第二章のラスボスとして扱われていた。
……プレイしていた当時の記憶は、曖昧なのだけど。
それでも断言出来る。
魔王の姿が、おかしい。
俺が知っている魔王の姿は、以前、間接的に討ち取ったハルケギアのそれだ。
あんな黒ずくめの怪人めいたものではない。
……そこを気にしつつ、俺は奴とセリーナの一戦を見守り続けた。
確か過去編においては、主人公の父母を中心としたパーティーと連携することにより、魔王を撃退することに成功していたはず、だけど。
彼等が存在していないことにより、セリーナは窮地に追い込まれてしまった。
「まずいな……」
彼女はシナリオ上の重要人物だ。
将来的にゼノスを殺す可能性が高いキャラクターではあるのだけど……
ここでセリーナが退場したなら、どんな問題が出るやら、わかったもんじゃない。
というかそもそも。
今の彼女は年端もいかぬ美少女である。
原作のような、擦れきった美女というわけじゃない。
そういう印象も相まって……
俺は、セリーナを救うことにした。
無論、間接的に。
「……皆の意識が向こう側にあるのは、かなり好都合だな」
すぐ横に置いてあった鞄から装備一式を出して、それを纏わせる形で分身を創る。
かなり大胆な行為だったが、誰も気付いてはいない。
あとは装備品の効能によって姿を消失させた分身……ストレンジ・セブンを操り、現場へ向かわせる。
そこでは今まさに、セリーナが窮地に陥っていて。
鳥型の魔物が彼女を貫かんとする直前。
「《オール・エラー》」
魔物を絶命へと至らせた後。
セリーナの目前にて、姿を現す。
「あなた、なに……?」
彼女の問いを受けてからすぐ、俺は分身に名乗らせた。
「――ストレンジ・セブン」
そして。
原作では雇用関係に始まり、最終的には命を奪い合った二人が、今。
「力を貸そう」
「うん。ありがと」
共闘の誓いを立て……並び立つ。
片や作中最強。
片やラスボス。
そんな二人の姿を前にしながら、魔王はくつくつと笑みを零し、
「――戯れ合いの、大詰めといこうか」
虚空に顕現させた無数の黒炎を放ってくる。
セリーナ単体であれば、この攻撃はあまりにも厄介なものだろう。
回避したなら魔物へと変じ、不意を撃ってくる。
防御したなら、それを貫通して即死となりかねない。
スキルで消滅させても、クールタイムが間に合わず、全てを消しきることは叶わない。
――だが。
ここにストレンジ・セブンが加わることによって。
状況は、いとも容易いものへと変わるのだ。
「俺が後衛を務める。君は前へ出ろ」
「わかった」
きっとセリーナは本能的にこちらの力を感じ取っているのだろう。
返事にも行動にも、一切の迷いがなかった。
果たして彼女は迫り来る黒炎を回避し……
次の瞬間、それが魔物へ変異すると同時に。
「《オール・エラー》」
俺が、その命を奪う。
結果としてセリーナは、殺到する闇色の炎を躱しながら魔王へと肉迫し、そして。
「《オール・クリア》」
純白の流線を纏わせた長剣で以て、再び、魔王の胴を袈裟懸けに斬り裂いた。
決着。
その二文字が脳裏に浮かぶ。
正直言って、俺の手で魔王を倒すことは絶対に不可能だ。
何せ相性が悪すぎる。
我がスキル《オール・エラー》は、生き物が相手なら誰であろうと殺すことが可能な力ではあるが、今の魔王のように、魂そのものといった存在には効果がない。
だが一方で。
セリーナの《オール・クリア》であれば、概念的存在すらも消すことが可能。
さりとて、彼女のスキルは物量に弱いため、単独での魔王討伐は不可能であった。
……それを思うと、コンビとしての相性がメチャクチャ良いんだな、ゼノスとセリーナって。
まぁ、それはさておき。
「く、うっ……」
魔王が、ゆっくりと消え去っていく。
これでよかったのだろうかと、そんな気持ちもあった。
何せ本来は本編の第二章で倒す存在だからな。
それをこんなタイミングで討伐したとなると、今後、どんな影響を及ぼすやらわかったもんじゃない。
だが……
奴が消え去ることで、きっと。
「リスティー。これで君は」
家族も同然のメイドが、苦痛から解放されるのではないかと。
そう考えた、矢先の出来事だった。
「く、くくっ……! 余興はこれにて、終いとしよう……!」
その声は。
消えゆく魔王の口から放たれたものであると、同時に。
「礼を言わせてもらうぞ、愚かな小僧よ」
こちらのすぐ、隣。
――リスティー・エリクシールの口から、放たれたものでもあった。
~~~~あとがき~~~~
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