第二三話 陰の実力者って感じになってきた


 さくばんはおつかれでしたね。


 ……いや、ホント、マジでキツかった。


 軽はずみに言うもんじゃないな、大幹部とその手勢が病に伏せるだなんて。


 対象は二八四名。

 当初は楽勝だと思ったんだけど、いざやってみるとかなり大変だった。


 なんせどいつもこいつも色んな場所に散らばってるもんだから、スラム全域を飛び回らないと宣言通りにならなかったんだよな……。


 ぶっちゃけ半分ぐらいでいいんじゃね? とも思ったのだけど、後になってラヴィアに「ストレンジ・セブンからビッグマウスに改名したら?」とか言われたら軽くヘコむ気がしたので、それはもう本当によく頑張った。


 仕事をやり終えた頃にはもう意識があるんだかないんだかわからないような状態となっていて。


 それゆえに。


「あぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃきぃぃぃぃぃぃぃッ!」


「あ~さ~だ~よ~!」


「メシの準備、終わってます。ウス」


 完っ全に、寝坊した。


 同居人の子供三人に朝の挨拶をして、キッチンへ。


「今日はなんだか、一段と美味く感じるな……」


 昨夜のことが原因か、妙に体が喜んでいるような感じだ。

 ……これ、スキルの副作用とかじゃないよな?

 まぁ、今はなんとも言えないので、あえて捨て置くけど。


 それから。

 治療院の営業をスタートすると同時に。


「先生ぇえええええええええッ!」


「はよう、治療してくれぇえええええええええッ!」


 律儀に営業開始まで待っていたらしい。

 厳ついマフィア達……ゼラトールの連中が大挙として押し寄せてきた。

 そんな彼等を一人一人、丁寧に治しつつ、


「ほう。それはそれは。随分とご活躍なさったようで」


「おうよ! この傷もそんときのやつさ!」


 昨夜の顛末を、聞き出していく。


「それで……大幹部セドラは、ラヴィアさんの手によって葬られた、と」


「そうそう! あんときのボスにゃあ痺れたぜ!」


 ……むしろ俺からしてみると、セドラの方を称賛したくなるな。


 連中に付与した各種ウイルスは、発熱、目眩、下痢、嘔吐などを引き起こし、とてもではないが戦闘行動など不可能な状態にあったはずだ。


 こちらとしては怪我人など出るはずのない一戦、だったわけだけど。

 ルキアーノの大幹部と配下達は、実に強い精神を持っていたらしい。


 ……その根性を、もっと善良な方向に発揮してたなら、命を落とすこともなかったろうに。


 と、そんなことを考えた、矢先。


「邪魔するわよ!」


「うちのモンの世話、感謝しやすぜ、先生」


 ラヴィアとゲルトがやって来た瞬間、構成員達が総立ちとなって、頭を下げる。

 そんな彼等へ楽にするよう言ってから、ラヴィアは適当な椅子に腰を落ち着けて、


「昨夜のことは……うちの子達から聞いてるわよね?」


「えぇ。大幹部の首級を挙げられたとか」


 暗に「おめでとう」と述べたところ、ラヴィアは複雑げな顔をして、


「あたし等の力で成し遂げたなら、素直に喜ぶことも出来るんだけど、ね」


「……昨夜の大金星には、なんらかの裏がある、と?」


「うん。……知りたい?」


「いいえ。カタギが知ったところで、詮無きことでしょう」


「…………ま、それもそうね」


 それから。

 彼女はこちらへ微笑を向けながら、一言。


「ルキアーノの連中……こっちに来てない?」


 これに対して、俺は。


「……えぇ、何名かいらっしゃいましたよ」


 嘘を吐いた。


 なぜならば。


 次を予告するのに、使えると思ったからだ。


「へぇ~。そいつら、やっぱり追い出したの?」


「治療師としては失格やもしれませんが、彼等には個人的な恨みがありますので」


 そう答えた後。

 俺は、次の言葉を口にした。


「あぁ、そういえば。その方々はご自身の治療のために、こちらへ足を運んだわけではなく……直属の上司を治してほしい、と。そのように頼んでいましたね」


 これを受けて、ラヴィアは目をギラリと光らせ、


「その上司……名前は?」


「えぇっと、確か、そう…………ブラムス、でしたかね。どれほどの人物かは存じませんが、どうやら難病を患ったようでして。命を落とすまで、そう長くはないかと」


「ふぅん。それはそれは。いいことを聞かせてもらったわ」


 こちらの台詞に、ラヴィアがニヤリと笑う。

 そんな彼女へ、俺はさらに言葉を積み重ねた。


「ご自愛ください、ラヴィアさん。最近、風邪が流行っているようですから」


「えぇ、そうね。気を付けておくわ」


「さすがラヴィアさん、実に素直な御方だ。……ルキアーノの皆さんにも、貴女のような人柄があれば、風邪など引くこともなかったでしょうに」


 もうほとんど、こちらの素性を明かしたようなもんだが。

 しかし見込み通り、ラヴィアやゲルトは無粋なツッコミなどすることなく。


「重ねて、礼を言わせてもらうわ、ゼノス」


「世話になった恩、生涯忘れやせんぜ、先生」


 あくまでも、構成員の面倒を見てくれる治療師に礼を言う形で、言葉を紡いでから。

 二人は静かに、治療院から去って行った。


 ……さて。



 明日も、寝坊することになりそうだな。






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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