第二七話 決戦の開幕
リスティーの異様を気にしつつも、必要な準備を済ませ……
王都を出立。
そうしてから数日の旅路を経て、俺達は決戦の地へと辿りついた。
高低差が目立つ丘陵地帯。
国軍はその一角に陣を敷き、敵方の襲来に備えていた。
そんな陣地の只中を歩きながら、俺は周囲を見回し、兵の顔ぶれを確認。
王国は基本的に中世ヨーロッパ的な戦争スタイルを採っている。
つまり、自前の騎士団や軍団だけでなく、冒険者などを傭兵として募り、これを戦力として数えているということだ。
「……これだけ数が多いと、見つからなくて当然だよな」
此度の一戦において大活躍することとなる、主人公の父母を始めとした冒険者パーティー。
そして、この一戦により、最強の冒険者として名を馳せるようになる彼女。
いずれもこの陣地に存在するのだろうけど……結局、見つからぬまま、
「ゼノス様っ! よくぞ、おいでくださいましたっ!」
「君が居てくれたなら千人力! いや、万人力だ!」
陣中央に設置された幕舎にて。
俺はナターシャ、イザベラ、両名と再会する。
満面に嬉しそうな笑みを浮かべる彼女等へ、俺は微笑を浮かべながら挨拶して、
「……ナターシャ様。素敵な物件、どうもありがとうございました」
完全に皮肉のつもりで口にしたのだけど、相手方は何か勘違いをしたらしく。
「さすがはゼノス様……! わたくしが考えた通りに、行動なされたのですね……!」
目を煌めかせながら、尊敬の眼差しを向けてくる。
イザベラもまた似たような顔つきで、
「スラムでの武勇伝、聞かせてはくれまいか」
断る理由もないので、現在に至るまでの経緯を包み隠すことなく語ってみせたところ。
「まぁ……! こんな短期間で、そこまでの成果を……!」
「素晴らしい……! ゼノス、やはり君は歴史に名を残すほどの傑物だな……!」
めっちゃヨイショしてくれるじゃん。
なんか気分良くなってきた。
もう許しちゃってもいいかな、スラム送りに関しては。
「しかし……実質的なスラムの王になられたということは、やはり」
「えぇ。かの土地をまっとうな場へ変えたいと、そのように考えております」
「素晴らしいお考えですわ、ゼノス様……!」
「恐縮です。……つきましては、下世話な話になるのですが」
「えぇ、えぇ。理解しております。此度の一件、その落着次第では、わたくしの発言権はより強いものとなりましょう。それを利用し……」
スラムに対する予算を、組んでもらう。
俺がここへ来たのはナターシャ達のためであると同時に、スラムのためでもある。
「俺個人に対する報酬は一銭も必要ありません。その分も、スラムの方へ回していただければ、と」
「ゼノス様……! やはり、貴方様は……!」
「見込み通りの、いや、見込み以上の男だな、君は」
感涙するナターシャと、微笑して頷くイザベラ。
なんともオーバーな二人に苦笑していると……
「っ……!」
そのとき。
リスティーが小さな悲鳴を漏らした。
それに対してこちらが反応を示すよりも前に。
「……来ますにゃ」
片手で頭を抑えながら、呟く。
その意図を問わんとする、直前。
「殿下ッ! 斥候より伝令ッ! 魔王の軍勢と思しき魔物の群れが、大挙として押し寄せてきたとのことッ!」
幕舎の中へ入り込んだ兵の一人が、そのように叫ぶと、ナターシャは小さく頷いて。
「……ゼノス様。どうか、お力添えくださいまし」
首肯を返す。
そんなこちらの反応を確認してから、ナターシャはイザベラと共に幕舎を出て、軍全体を纏め上げた。
これから間もなくして、本格的に戦が始まるのだろう。
そこに対する緊張などは皆無だが……
「リスティー? 大丈夫か?」
「……はい。問題、ございませんにゃ」
発熱などの体調不良は見受けられない。
だが、やはり。
虚ろな瞳は数日前から変わることなく。
隠し続けてきたアザも、露出したまま。
明らかに、いつもの彼女ではない。
その元凶は、おそらく。
「……魔王、か」
確信も確証もない。
だが、状況を考えるに、それ以外の原因が思い付かなかった。
リスティー・エリクシールはゼノスの過去を画いたノベライズ作品における、重要なキャラクターであるということは知っている。
だが、どのような背景を持ち、どういった形でゼノスに関わったのか。
そして……
どのような結末を、迎えたのか。
何もかもが、わからない。
だが。
ただ一つ、言えることは。
「……待ってろ、リスティー。君の問題は必ず、解決してやるからな」
俺自身が。
そして、俺の中にある、ゼノスの心が。
強い決意の情を芽生えさせていた。
「ゼノス! 魔王の軍勢が迫ってきた! 君は――」
「えぇ、イザベラさん。俺に出来ることを、精いっぱい、やらせていただきますよ」
治療師として。
さらには。
ストレンジ・セブンとして。
俺は、初の大戦を、迎えるのだった――
~~~~あとがき~~~~
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