第二六話 いざ戦場へ
ラタトスク・ファンタジア本編より、十数年前。
それが現在の時間軸となっている。
本編の主人公はまだ三歳かそこらで、当然のこと、目立った活躍などはしていない。
この時期を描いた過去編はノベライズという形で何冊も出ているのだけど……
なにぶん、かなり昔に読んだものなので、内容はうろ覚えだ。
特にゼノスの過去編に至っては、未読である。
なにせ俺は、彼に対して特別な思い入れなどまったくなかった。
同じファントムヴェイン家であれば、長兄のゼアルの方がよほど気に入っていたぐらいだ。
しかしながら、断言出来る。
今回の事件……魔王ベルファスト直々の出陣に対して、ゼノスはまったく関わっていなかった。
この一件において大活躍を見せるのは、本編主人公の父母を含む高名な冒険者パーティーと……あるヒロイン。
よってゼノスである俺が関わったなら、またもやシナリオは予期せぬ方向へと修正されていくのだろうけど……
「どうかどうかッ! お頼み申すッ! 殿下の一大事なのですッ!」
確かに、その通りなんだよな。
何せナターシャは、本編前に死んでいるキャラクターなのだ。
正史においてはきっと、魔王の息子であるハルケギアの呪いによって、命を落としていたであろう第一王女。
今や彼女はそのイベントこそ乗り越えたものの……
依然として、危機的な状況にあると思われる。
本編にて登場するキャラクターとは違い、彼女はその生死が定まってはいない。
だから、どんなタイミングで命を落とすやら、わかったもんじゃないのだ。
……救った相手が、自分の知らないところで死んでしまうというのは、実に気分が悪い。
もし自分が加勢していたなら、それを防げたかもと、そんな風に思うようなシチュエーションであれば、なおのこと。
そこに加えて。
「……俺はスラムの一員として、この区画の発展と平穏に従事したいと、そのように考えております」
「……? それは、本件と関係のある話、ですかな?」
「えぇ。実に下世話なことではあるのですが……何を目指すにせよ、カネが大事だということは、貴方もわかるでしょう?」
こちらのいわんとすることを理解したか、相手方は複雑解な顔をして、
「……報酬は、殿下と要相談ということに、なりますな」
ま、この人の立場じゃ、これが限界か。
「わかりました。この話、引き受けさせていただきましょう」
「おぉッ! それはありがたいッ! 殿下もきっとお喜びになられるでしょうッ!」
「今より出立の準備を行うつもりですが……時間の猶予は?」
「現状、出揃っている情報からして……三日以内に、王都を出ていただきたく!」
そういうわけで。
遣いが去った後、俺はセブルス達へ目をやると、
「留守を頼めるかな?」
「おう! 任せとけ!」
「おくすり出すぐらいしか、出来ないけどね!」
「ウス。自分は、色々と勉強します」
あぁ、よかった、聞き分けの良い子供達で。
自分達も付いていくとか言い出したら、本当に面倒なことに――
「ゼ、ゼノス、様」
思索する、最中。
二階からリスティーが、降りてきた。
「な、何してるんだよ、リスティー! 寝てなきゃダメだろ!」
胸をざわつかせながら叱咤するこちらへ、彼女は一方的に言葉をぶつけてきた。
「ウチも、行きますにゃ」
「い、行くって、まさか」
「はい。ゼノス様と共に、戦場へ」
……なんだ?
どうにも、おかしい。
具体的な説明は出来ないが、強い違和感がある。
だから俺は、当然のこと。
「……ダメだ。出立までに治ったとしても、病み上がりの君を戦場なんかに連れて行けるわけがない」
リスティーはこちらの目をジッと見据えて。
「なんと言われようと……付いていきますにゃ」
当惑、せざるを得なかった。
彼女がこちらの意に反したことなど……なくはないが、しかし。
今回のように、真剣な話において、俺の意向を無碍にするというのは初のこと。
やはり何かがある。
そしてそれは。
きっと、シナリオという名の運命によって、定められたものだろう。
……抗ったところで無駄、か。
ならばもう、覚悟を決めるしかない。
これから待ち受ける問題の全てを、なんとしてでも解決する。
リスティーのそれは、命を賭してでも。
「……わかった。同行を許可する」
「ありがとう、ございますにゃ」
虚ろな瞳のまま、彼女は二階へと戻っていった。
その後ろ姿を見つめつつ……
不意に、俺は怪訝となる。
リスティーの、露出した肩。
そこには普段、魔法で隠しているというアザが浮かんでいて。
気のせい、だろうか。
――そのアザが一瞬、妖しい光を放ったように、見えた。
~~~~あとがき~~~~
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