第三話 ヤベー公爵家のヤベー家族達
我が家は現在、父母と五人の子息・令嬢、計七名で成り立っている。
そんな家族構成の中に在って、俺はもうすぐ一二才を迎える末っ子だ。
兄姉達は皆、一人立ちした状態にあり、普段は別々の土地で活動している。
そんな家族が一堂に会するのは、年に数回程度。
家族会議の開催日には例外なく、存命中の兄姉が皆、実家に集う。
――本日はまさに、それだった。
家族会議は一家団欒という側面もあり、それゆえに形式上は食事会の体を取っている。
俺は一人、屋敷の食堂にて、皆の集結を待った。
そんな中。
まず最初にやって来たのは。
「おう、ゼノス。元気だったか?」
「うん。ガイアス兄さんも息災なようで、何よりだよ」
ガイアス・ファントムヴェイン。
我が家の次男である。
大柄で厳めしい顔つきの彼は、外見上、粗暴な印象を受けるのだが……
「いやぁ、体の方はまぁ、健康なんだけどなぁ。部下のやらかしがキツくてさぁ」
実際のところは、中小企業の社長といった感じだ。
家族達は皆、表と裏の顔を持つ。
ガイアスが持つ表向きの顔は、貿易商である。
「はぁ。首を切るのは辛いんだよなぁ。相手の人生を思うとさぁ」
「あはは…………首を切るって、物理的な意味じゃ、ないよね?」
「あぁん? そりゃあそうだろ。比喩表現だよ、比喩表現。つ~か、そもそもさ」
苦笑しながら、ガイアスは言った。
「お前も知ってんだろ~? オレにとっちゃあ、首ってのは切るもんじゃなくて――――潰すもんだよ」
そう。
彼もまた、裏の顔はれっきとした殺し屋である。
そんなガイアスと言葉を交えていると。
「あらぁ~ん? 一番乗りじゃなかったようねぇ~ん?」
ずいぶんと艶っぽい声音の美女が、食堂に入ってくる。
彼女はエステル・ファントムヴェイン。
我が家の長女である。
「あらら~? ゼノス~、貴方、そろそろ年頃って感じねぇ~ん?」
「う、うん。そうだね」
「一端の男になりたかったらぁ~……いつでも、お姉ちゃんを頼ってちょうだぁ~い」
エステルが有する表の顔は、娼館の主。
それも国内最大規模を誇っており、各地に支店を出しまくっている。
「なぁなぁ聞いてくれよ、姉貴! うちの部下がさぁ!」
「あらぁ~ん、奇遇ねぇ~、ガイアス~。アタシんとこも似たようなもんよぉ~」
責任ある大人同士の愚痴が、延々と続く中。
また新たに、姉の一人が食堂に足を踏み入れた。
「はぁぁぁぁ。なんでこんな会議に参加しなくちゃいけないのよパパの横暴にはもうウンザリ少しは融通ってものを利かせてほしいわマジで」
ブツブツと早口で愚痴を言いまくる。
見目は麗しい、はずなんだけど、猫背で根暗な顔つきが全てを台無しにしてるって感じだ。
彼女の名はミント・ファントムヴェイン。
我が家の次女である。
「あぁぁぁぁぁ、本が恋しい本が読みたい本がないと死ぬ」
「ははっ! あいっかわらずだなぁ、ミントは!」
「図書館の経営、上手くいってるのぉ~ん?」
「当たり前でしょわたしを誰だと思ってんのよ本を愛し本に愛され本と共に生きるミント様よ舐めないでちょうだい」
ブツブツと早口で返す次女。
彼女が持つ表の顔は、超大規模な図書館のオーナー。
裏の顔は殺し屋……ではなく、情報屋である。
彼女は現在、我が家において唯一の特例であった。
俺もその一人になるべく、今日は気合を入れて頑張らねば。
と、そんなふうに思った、次の瞬間。
「おや。僕が最後か」
我が家の長兄にして、次期当主。
さらには……原作における、ラスボス候補の一人だった青年。
ゼアル・ファントムヴェインが、我々のもとへやって来た。
「おぉ、兄貴! どうよ、最近!」
「まぁ、なかなか厳しいところだねぇ。うちも経営難の時期が来たようでさ。ここ最近は色んな意味で、てんてこ舞いだよ」
糸の様に細い目をさらに細くさせながら、ゼアルは肩を竦めた。
「ここいらは平和だもんなぁ~」
「死の商人としては、いまいちな時世よねぇ~ん」
ゼアルが持つ表の顔は、武器商人。
国内だけでなく大陸中を渡り歩き、多種多様な武器・兵器を売りさばく、死の商人である。
もう裏も表もないな、この人の場合は。
「さて……後は、父さんと母さんだけ、か」
食堂の出入り口を見やりつつ、ゼアルが呟いた、そのとき。
ドアが開かれ、一人の女性が入ってきた。
漆黒の美髪と真紅の瞳が特徴的な彼女は、こちらを見るなり一言。
「皆、立派に育ったわねぇ。…………そろそろ狩るか」
我等が母、イリア・ファントムヴェイン。
彼女は伝説の元・傭兵であると同時に、王都を騒がせた連続殺人鬼という一面も持つ。
その人格は、戦闘狂にして殺人狂。
イリアは俺達にとっての母であると同時に、最大の脅威でもある。
しかし。
彼が居る限りは、母が暴走するようなこともないだろう。
我等が父にして、歴代最強の異名を取る、現・ファントムヴェイン家当主。
ライゼル・ファントムヴェインが、イリアに続く形で、入室し――
「イェエエエエエエエエエイ! みんなぁあああああああああああっ! ひっさしぶりぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
――ハイテンションな声を、響かせた。
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