第七話 人助けをしたら、予期せぬ展開になった
この世界の原作にあたるRPG、ラタトスク・ファンタジアにも、カオス・リザードという魔物は登場している。
こいつは中盤あたりで出現する敵モンスターなんだけど……
まぁ~、やたらめったらに強い。
厄介な全体デバフ。
即死効果を有する石化の付与。
高すぎる基礎能力。
そして……
状態異常やデバフ魔法が、まったく通じない。
硬いわ、痛いわ、ズルいわ、三種の神器を兼ね備えたカオス・リザードは、立派なクソモンスターとして、当時のプレイヤーをイラつかせていた。
無論、俺もその一人である。
ラタファンはもう一〇年以上前にプレイしたゲームなので、その内容はうろ覚えだが……それでも、こいつに抱いたヘイトは未だに残り続けていた。
ゆえに。
「くたばれッ! クソモンスターッッ!」
デカくて黒くて単眼のキモいやつ。
そんなカオス・リザードの脳へ、人食いバクテリアの性質を付与した極小生物を送り込む。
原作において、こいつは状態異常を完全に無効化、していたわけだけど……
それはあくまでも主人公パーティーに限った話。
こちとらラスボスである。
制作者の都合なんぞ知ったことではない。
我が《オール・エラー》は、憎きクソモンスターの脳味噌を瞬く間に食い尽くし……
「ァ、ガ……」
被害者女性の目前にて、奴の巨体が倒れ込む。
「にゃはっ! さっすがですにゃ、ゼノス様! カオス・リザードもぜぇ~んぜん、相手にならないにゃ!」
リスティーの称賛に対し、俺はあえて反応を返さなかった。
それよりも今は、優先すべきことがある。
「大丈夫ですかっ!?」
被害者の女性へと近寄り、状態を確認。
……こりゃ酷い。
衣服はボロボロで、覗く肌は総じて血塗れか、青痣だらけ。
頭部からは大量出血。
そして、左足の複雑骨折に加え……
右腕に至っては、折れた骨が皮膚を突き破っていた。
「……前言撤回。まったく大丈夫じゃないな」
こちらの声に反応する形で、相手方が声を漏らす。
「た、たすけ、て……」
朦朧とした調子だが、むしろ意識を繋ぎ止めていること事態が、驚異的といえる。
そんな彼女のタフネスと精神力に感心しながら……
俺は、処置を開始した。
まずはデカいところから治していこう。
具体的には……右腕の開放骨折。
「どう治すにゃ? ゼノス様」
「うん。最初はとりあえず、局所麻酔、かな」
彼女の右腕周辺に極小生物を送り込み……ある性質を付与。
エステル型局所麻酔薬、プロカイン。
これと同質の概念となった極小生物が、神経系に働くことにより、右腕周辺にて発生する痛みを完全にカット……している、はずだ。
「えっと。痛くない、ですよね?」
右腕に触れつつ、確認を取ってみる。
相手はコクリと小さく頷いた。
よし。
では……グロいけど、頑張ろう。
「飛び出た、骨を……中に、戻して……ぉえっ」
あぁ~、グロい、グロい。
お医者さんってのは本当に凄い人達なんだなと、改めて実感する。
ともあれ。
骨を収納した後、透過の魔法を発動。
彼女の皮膚を透かし、筋肉と骨の状態を確認する。
……こっちも吐くほどグロいが、我慢我慢。
「えぇっと。次は、粉々になった骨を、一カ所に纏めて……っと」
極小生物をコントロールし、破片状の骨を動かしていく。
そうして形状を整え……
さらに極小生物を送り込み、彼女の骨を形成する細胞へと変換。
それらの働きによって、粉々になった右上腕骨が完全に再生した。
その要領で、左足の複雑骨折を治療。
続いて右腕の皮膚を始めとした裂傷の数々を、細胞増殖によって再生。
破損した血管や失われた血液についても、極小生物に対して特定の性質を付与し、増殖させることによって完璧にケア。
最後に全体を透過し、大きな問題がないことを確認して――
「治療、完了!」
服装以外は、完全に元通りとなった、はずだ。
「どうですか? 具合の方は?」
「う、うむ。信じがたいほど、万全だ」
武士っ娘口調の美女。
その姿を、俺は改めて注視した。
ショートヘアに切り揃えられたプラチナブロンドの美髪。
肌は小麦色で、体は良く引き締まっている。
背丈もそれなりに長身で、女性としてはかなりパワフルな印象だ。
「えっと……貴女も冒険者、ですよね?」
「あ、あぁ。副業ではあるのだが、な」
副業という言葉を気にしつつ、俺は思索した。
……これってダブル・ブッキングだよね?
いや、まぁ、別の都市で出された依頼を彼女がこなそうとした、というセンもあるわけだけど。
とにもかくにも、問題なのは。
「え~っと……今回のクエスト、なんですが……達成者って、どっちになるんでしょう?」
「それは無論、君に決まっている。カオス・リザードを討伐したのは、君なのだから」
「あぁ、それはよかった」
「タダ働きにならずに済んで、ほんっとによかったですにゃ。馬車代も馬鹿になりませんからにゃ~」
リスティーに苦笑を返す。
今まさにタダ働きが確定した人の前で、そういうことを言うのはどうかと……。
そんな気遣いを、相手方は察したのか。
「私への配慮は不要だ。全ては自己責任。今は弱き己を恥じるばかりよ」
それから彼女は姿勢を正して、
「申し遅れたな。私はイザベラ・ゲートルという」
「あぁ、ご丁寧にどうも。俺は……ゼノス・フェイカーといいます」
家名を名乗るべからず。
その条件に応じて、俺は偽名を口にする。
それから。
「ウチはリスティー・エレクシールにゃ」
「うむ。よろしく頼む」
どうやらイザベラは、魔族への差別感情を持っていないらしい。
よかった。
治して早々、壊すようなことはしたくなかったからな。
「じゃあ、イザベラさん。俺達はこれで――」
「い、いや! ちょっと待ってほしい!」
「――? なんでしょう? 何かご用でも?」
彼女は縋るような目で、こちらを見つめながら。
次の言葉を、紡ぎ出した。
「私は純粋な冒険者ではなく……さる高貴な御方に仕える、従者、なのだ」
「はぁ」
「そ、それでな。君の腕を見込んで、頼みがあるのだが」
「えっと……それは、どっちの意味で?」
「う、うむ。治療師として、だが」
「あ。でしたらお受けします。なんなりとお申し付けください」
戦闘能力を期待して、誰かをブッ殺してくれ、みたいな話なら速攻蹴っていた。
しかしながら、治療師として誰かを治せというのなら、喜んで従事させてもらおう。
そんな受け答えにイザベラは泣きそうな顔をして、
「感謝する! 心の底から、感謝するぞ! ゼノス!」
こちらの手を握りながら、ポロポロと涙を零す。
そんなイザベラの様子を見るに……これはかなり、重大な仕事になりそうだな。
「えっと。それで、どなたを治せば?」
「うむ。それが、だな」
イザベラは言った。
他言無用で頼む、と。
その言葉に、こちらが首肯を返した後。
イザベラは、相手の名を、口にした。
「――第一王女殿下、ナターシャ様。彼女をどうか、救っていただきたい」
~~~~あとがき~~~~
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