第八話 王女殿下を治すことになった
第一王女。
そのワードには、聞き覚えがある。
確か、そう……
原作では既に、故人だったような。
……死ぬ定めにある人間を治すというのは、かなりのリスクじゃないか?
そこらへんのモブならまだしも、第一王女というのはかなりの立場だ。
そんな彼女が退場せずに生き残った場合、シナリオにどのような影響を及ぼすのか、まったく予想が付かない。
合理的に考えると、この話は断るべき、なんだろうけど……
「いや、本当に助かったぞ、ゼノス! 君に断られたなら、私は首を括っていたかもしれん!」
こんなこと言われたら、断れないよなぁ……。
まぁ、不安材料はゼロじゃないけど、絶対に断らなきゃいけない内容でもないし。
俺の主目的はあくまでも、ラスボスにならないこと。
一〇年かそこら経過した後、主人公達にブッ殺されなければ、それでいい。
であれば。
死ぬはずのキャラクターを救っちゃっても、別に問題ない、か。
と、そんなふうに楽観しつつ、リスティーやイザベラと共に王都へ帰還。
到着する頃には朝を迎えていたが、イザベラが急かすので、俺達は朝食を摂ることなく患者のもとへ向かった。
果たして、王女の住まいは、
「えっと。本当に、ここ、ですか?」
「うむ。信じがたいだろうが……ナターシャ様は、清貧を尊んでおられるのだ」
てっきり、宮殿もかくやとばかりの豪邸に住んでるんだろうなと、そう思っていたのだけど。
実際はそこらへんにある一般的な住宅と、まったく変わらなかった。
「まぁ、とりあえず、上がってくれ」
「はい。お邪魔します」
「邪魔するにゃ~」
内観もまた、極めて質素。
壺もなければ絵画もない。
それはイザベラの言う通り、清貧を尊んでいるというのもあるのだろうけど。
「と、ところでな、ゼノス。治療に対する報酬、なのだが」
どうやら彼女の様子を見るに、第一王女は金銭的な問題を抱えているようだ。
「も、もし足りなければ……わ、私の、体で……!」
一二才の子供にそういうこと言うのはどうかと思う。
まぁ、中身はオッサンなんだけどね。
「金銭に関しては、お気持ちだけで十分です」
「えっ!? ほ、本当か!?」
「はい。カネのためにやっていることではありませんから」
人殺しになりたくない。
ラスボスとしての運命を拒絶したい。
こちらの真意としては、そういった利己的な感情による行動、なのだけど。
「……っ! ゼノス、君はまるで、聖者のような少年だな……!」
なんか誤解してるようだけど、まぁ問題ないし、放っておこう。
ともあれ。
俺とリスティーはイザベラの案内を受けて、王女様の自室へと入る。
「失礼いたします、殿下」
彼女に続いて、入室。
果たして患者の姿はといえば……
「あら、お客様がいらっしゃるの?」
ベッドの上に寝そべった王女様。
その容姿は絶世の美女と呼ぶべきものだった。
艶やかな桃色の美髪。
あどけなさが残る白い美貌。
寝間着を纏っていてもなお分かる、大きなおっぱい。
そんな彼女は視線をこちらに向けるのみで、起き上がろうとはしなかった。
……これは、もしかして。
「悪くされておられるのは、下半身、ですか?」
「……っ! う、うむ。一目見ただけで気付くとは、さすがだな」
ここで、まだ事情を知らないナターシャ殿下が一言。
「お客様は、お医者様、なのですか?」
「はい。ゼノス・フェイカーと申します。こちらは相方の」
「リスティー・エリクシールですにゃ」
どうやらこの人も、魔族への差別感情は持ち合わせていなかったらしい。
リスティーに対しても柔和な態度を崩すことなく、挨拶を返す。
それから彼女は、こちらを見て、
「そのお歳でお医者様だなんて。にわかには信じがたいこと、ですわね」
「ナターシャ様。この御仁はまだ幼子ではありますが、国内でも随一の腕をお持ちです」
イザベラは期待に満ちた視線をこちらへ向けながら、
「ナターシャ様のご病気も、必ずや治していただけるかと」
……さて、それはどうだろう。
四肢欠損とか、骨折だとか。
そういう外傷については、簡単に治せるわけだけど。
今回は、かなり厄介だぞ。
なぜなら――
「ナターシャ様が患っておられるのは、片麻痺……いわゆる半身不随、ですね?」
~~~~あとがき~~~~
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