第一四話 直接的な行為はNGだが、間接的なそれはOKとする


 ハルケギアが前述した通り、俺の行動は殺人者としてはあまりにも不合理である。


 標的の前に姿を現し、正面切っての戦闘行為。

 相手方を殺害するだけなら、そのような愚行を犯す必要はなかった。


 透過の魔法で幕舎をスキャンし、ハルケギアへ極小生物を送り込む。

 それだけで片が付く。


 が……俺は利己的な動機により、他者の命を奪うつもりがない。


 さりとて。

 ナターシャを救うには、対象を殺害する必要がある。


 この二者択一に対して、俺が出した答えは。


「ハルケギア・ゾディアック。貴様のスキルは――――今し方、消滅した」


 こちらの発言に、相手方は大きく目を見開いて、


「ば、馬鹿なッ……!」


 信じてたまるかとばかりに、彼はこちらを睨め付け、再びスキルを行使せんとする。


「《カース・オブ・デモニア》ッ!」


 スキルは発動……しなかった。


「くッ……! 《カース・オブ・デモニア》ァアアアアアアアアアッ!」


 何事も起きはしない。

 今のハルケギアは、ただ気合入れて叫んでるだけの、滑稽なオッサンでしかなかった。


「き、貴様ぁ……! いったい、何をしたぁッ!?」


 奴の疑問に、俺は淡々と受け答える。


「固有スキルが発動する仕組みを、貴様はまるで理解していない。だから、そうなった」


 我が家は暗殺者の一族である。

 そして暗殺者とは、多種多様な分野に精通しているもので……


 先祖の一人に、極度のマッドサイエンティストが居た。


 彼女は人体を徹底的に切り刻み、その仕組みを調べ尽くし、研究資料として纏めたわけだが。

 彼女が残した資料の一つに、スキル発動の仕組みに関する内容があった。


 それを要約すると、


「スキルは決して、完全なる神秘ではない。人体の一部……即ち、脳がもたらす特異な力を、我々はスキルと呼称しているのだ」


 先祖曰く、スキルは脳の特定部位が特殊な働きを行うことで、発動するものだという。


 その特定部位というのは個人差があるため、絶対的に「ここだ」という断定は出来ない。


 しかしながら。


「スキルを発動する際、人であれ魔族であれ、機能している部位が小さな煌めきを放つ」


 もし、そこをピンポイントで取り除いたなら。

 今、ハルケギアが無様を晒しているように。

 当人のスキルと、その効力は、永遠に消失する。


「さて……私の用事は、これで終わったわけだが」


 十中八九、ナターシャの呪いは解除されているのだろうけど。

 念には念を入れておくか。


「――《オール・エラー》」


 ハルケギアの体内に極小生物を送り込み、全身の神経系をズタズタにする。

 と、次の瞬間。


「くぁっ……!?」


 奴は糸が切れた人形のように、地面へと倒れ込んだ。


「う、動か、ない……!?」


 そう。

 今のハルケギアは、指一本、動かすことは出来ない。


「後は……仕上げだな」


 再び櫓を登り、数多ある幕舎を透過の魔法でスキャン。


 さっきは捨て置いたけど……

 ここで、捕虜と思しき者達を、治す。


 四肢をグチャグチャにされていた男達。

 色んな意味で壊されていた女達。


 元通りになった彼等が、当惑した様子で幕舎から出てきたことを、確認すると――


 俺は皆の前に降り立って、次の言葉を口にした。


「同胞達よ。諸君は自由の身となった」


 まずはこちらが味方であることを宣言し、それから。


「後は、諸君の好きにするがいい」


 とまぁ、こんなふうに言い残して、立ち去る。


 きっと彼等の中には、自陣に帰ろうとする者も居るだろう。


 しかし、その一方で。


「ひぃっ!? や、やめろ! 来るなぁ!」


 やられた分を、倍返しにしようとする者。

 あるいは、大将首を取って手柄を得ようとする者。


 そういった手合いも、居ることだろう。


 彼等がどういう選択をするのかは、こちらの知ったことじゃない。

 また……


「ぎぃあああああああああああああああああッッ!?」


 自業自得な結末を迎える男を、救ってやる義理もない。


 俺が殺人を犯さない理由は利己的な動機によるものであり、善意を以てそのような選択をしているわけではないのだ。


 それゆえに。

 自らの手で、直接、敵の命を奪うつもりはないが……


 自分の人生に影響を及ぼさないような形であれば、誰がどのように命を失おうとも、こちらには関係がない。


 魔族達の断末魔を背にして、俺は夜闇を駆けた。


 そうしつつ……

 ふと、疑問に思う。


「そういえば、ハルケギアの顔って」


 戦闘中はある程度の緊張感からか、そこを気にするようなことはなかった。

 しかし今にして思えば。


「原作に登場する魔王と……、よな?」


 ……なんか、やらかしたのだろうか。


 いや。

 まだ何も確定はしていない。


 うん。

 きっと、気のせいだろう。


「今はとにかく……ナターシャの状態、だな」


 無理やりに思考を切り換えて。

 俺は、王都へと帰還するのだった――






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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