5-5 フォーチュラはシスクと協力して強敵を倒すようです

「あと、少しだな……」


その翌日、何とか体力を回復させたシスクも連れて、俺達は新生トエル帝国に向かっていた。

ソニック・ドラゴンは得意げに叫び声を上げながら、風を切り裂き進んでいく。

その間暇だったのだろう、フォーチュラは俺に尋ねてきた。


「ねえ、新生トエル帝国ってどんな国なの?」

「えっと……すごい大きな国だったとは聞いているが……」


そう言えば俺も、新生トエル帝国には行ったことがない。

そこで横からリズリーが答えてくれた。



「この世界で一番大きな国で、私たちの大陸を統括している国です」

「大陸を? けど、今まで話とか聞いたことなかったけどなあ……」

「王様は各地の諸侯の方や村々の方に自治権を与えていますからね。普段はあまり意識することは無いと思いますよ?」



この世界の税率はあまり高くない上に、村や街が一括して納税を行っている。

その為俺達みたいな立場の人は、国という存在を意識すること自体があまりない。

フォーチュラもそれを聞いて、納得したような表情を見せていた。


「へ~。それで『新生』ってつくのはどうして?」

「元のトエル帝国は、前の魔王に奪われてしまったんですよ。……それで、半ば追い出される形で、今の新生トエル帝国は出来たわけなんです」

「そうだったんだね。……あ、見えた! あそこのこと?」


そうフォーチュラが指さした先には、大きな城が見えた。

リズリーもそれを見て頷く。



「ええ、そうですよ。……ってあれ、ちょっと待ってください、あそこ……!」



そう言うと、リズリーはその城門の南東に、小さな尺取虫のような影が見えるのを指さした。

……この高度で動くものが見える、ということ自体が異常だ。


「ひょっとして、魔物?」


魔物に詳しいシスクは、頷くと俺たちに説明してくれた。



「ああ。あの体色……おそらくレッドサンド・ワームだ。ワームの中でも上位種で、赤土のような堅い地面であっても軽く掘り進む力がある。……その性質は凶暴で人間を襲うことも多い」

「え? ……じゃあ、あそこに人がいるってこと?」

「おそらくはな。……どうする、ワンド? ……と、聞くまでもないか」



ゼログから散々俺の話を聞いていたのだろう。

……そう、こういう場で俺の言う答えは決まっている。

その為か、少し呆れた様子になりながらもシスクは荷物を手にもった。



「ああ。……誰かのために戦うのが勇者の仕事だ。……頼むぞ、シスク」

「訊くまでもなかったか。……飛ばすから、捕まってろ!」



シスクはソニック・ドラゴンに指示をすると、そのまま急降下させた。




俺達はサンド・ワームの50mほど上空まで近づいた。

「……こいつは……」


レッドサンド・ワームの大きさは俺の想像よりもかなり大きかった。

大体20mくらいだろうか。


そしてその巨体の下では、騎士団と思しき者たちが必死に抵抗をしている。



「あいつ……ゼログの手下か?」

「いや、レッドサンド・ワームは誰かに従う知能はない。……偶然現れたのだろうな」


シスクがそうつぶやくとトーニャは、少し悩むような表情を見せた。


「で、あの化け物はどうやって倒す? 正直私たちに勝てるか分からないけど」

「奴はあの巨体から分かるように強敵だ。真っ向で挑めば勝てる相手じゃない。……だが、レッドサンド・ワームは額の宝石が急所だ。そこを突けばいい」

「額?」



なるほど、確かによく見ると小さな宝石が、そいつの額にははまっているように見えた。

……だが、地上からあの弱点を狙うのは無理だろう。



「どうするんだ? ひたすらここから、魔法を当てるまで打ちまくるのか?」

「いや……その方法でもいつかは倒せるが、それまでに騎士団に被害が出るな」

「そうですね……。けど兄様、何か作戦はあるんじゃないですか?」



リズリーは兄に対して信頼を込めた目を向けた。

そしてシスクも、少し考えた後にこくりと頷く。


「ああ。だがそのためには……」


そしてフォーチュラの方を向く。


「フォーチュラ、あんたの力が必要だ……手伝ってくれるか?」

「え? わ、私?」

「ああ……すまないが、私を背負ってくれ」

「えええええ?」



シスクにそう頭を下げられることは想定していなかったのだろう。

フォーチュラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたが、



「わ、分かったよ、シスク様……」


そう言って背中を見せると、シスクはそれにおぶさった。



「あわわわわわ……」


怪力な獣人にとって、シスク程度なら軽々持ち上げられるはずだ。

だが、シスクが背中に乗ったことで、ふらふらとどこか落ち着かない態度を見せるフォーチュラ。


そしてシスクは、


「我が力、このものに預け、そして足とならん!」


そう詠唱し、掌に溜めた魔力をフォーチュラに送り込んだ。

するとフォーチュラは驚いたように自分の脚を見た。


「え? なに、これ……すごい、力が……足に集まってる……」

「自身の魔力を膂力に変えて、魔物に送り込む技だ。……久しぶりにビースト・テイマーとして戦えるな」

「うん……それで、どうすればいいの?」

「こうするんだ!」



そしてシスクは、空中にいくつもの岩を呼び出した。



「フォーチュラ、あんたの今の脚なら、岩に飛び移って移動できるはずだ! 私が召喚していくから、奴の額のところまで移動してくれ!」

「え? ……けど、もしあたしが失敗したら……」


躊躇するフォーチュラに対して、シスクは当然のように答える。


「ああ、私は落下して死ぬ。……だから命を預けるぞ、フォーチュラ」


魔物に自身の命を預けるのがビースト・テイマーなのだろう。

そう言いながら自身の肩をしっかりつかむシスクをみて、フォーチュラも覚悟を決めたように頷いた。



「うん! わかったよ、シスク様!」



そしてフォーチュラはすさまじい速度で岩を乗り継いでいった。

その動きに迷いはなく、シスクの呼び出した岩を電光石火の速さで踏み、跳んでいく。



「あと一つだ!」

「うん!」


そしてレッドサンド・ワームのすぐ上まで飛び、


「よくやった、フォーチュラ! ……これで終わりだ!」



そして今度は岩をレッドサンド・ワームの額にある宝石に叩きつける。



「グギャアアアアア……」



宝石は砕け、レッドサンド・ワームは、断末魔を上げて動かなくなった。

フォーチュラはそんなレッドサンド・ワームの死体をクッション代わりに、地面に降り立った。

ソニック・ドラゴンも地上の安全が確保されたことが理解できたのか、ゆっくり降下し始めた。


「やったね、シスク様!」

「ああ。……よくやったな、フォーチュラ。あんたが仲間で助かったよ」


そう臆面もなく言われたことで、フォーチュラは顔を赤くしながらうつむいた。


「シスク様の、その……魔法のおかげだって」



その様子を見ながら、俺達もソニック・ドラゴンから降りて、騎士団の元に向かう。

幸い、けが人はいくつか出ているが死亡者は居ないようだった。

彼らは俺たちのことを『信じられないものを見た』という表情で見てくる。

……まあ当然だが。


「大丈夫か?」

「え、ええ……あんな上空から魔物を倒すなんて、あなた方は何者ですか?」

「え? 俺は……」


少し悩んだが、俺は正しく答えることにした。



「勇者ワンドだ」


そのことを聞いて、周囲が驚いたような表情を見せる。


「ワンド様、ですか……?」

「ああ、新生トエル帝国の王に呼ばれて、来たんだ。遅れて悪かったな」

「いえ! 本当に来ていただけるなんて……! さあ、こちらにどうぞ!」


俺達はそう言われて、新生トエル帝国に招かれた。

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