第1章 依頼:森に潜むミノタウロスを退治してください

1-1 弱者たちが生きるには

ワンド一行が村を訪れた日の夜、村長は昼間に鑑定をさせた少女『リズリー』とその兄を呼び寄せていた。


「村長。お話しとは?」

「ああ、ワンド殿のことについてじゃ。……あ奴、依頼に乗り気ではなさそうな態度を見せていた。それでじゃ……」


そこまで聴いて、村長が言いたかったことを理解した兄は村長に尋ねた。


「まさか……やっぱり妹を……勇者『ワンド』に?」

「そうじゃ。……余所者のお前たちが断ったらどうなるか、分かるな?」

「村八分にするってこと、ですか……」

「そうじゃ」


村長のその酷薄な言葉に、リズリーの兄は怒りの表情を見せた。


「けど、いくら何でもそれはあんまりです! リズリーをなんだと思ってるんですか!」


だが村長は、覚悟を決めた表情で淡々とつぶやく。


「ことが済んだらワシを斬るなりなんなり好きにすればいい。どうせワシはもう病で長くもない」

「ですが!」

「ワシには、村人の命と生活を守る義務がある。そしてその優先順位は、余所者のお前たちが最後……残酷な願いだとは承知しておる」

「だったら我々の手でその魔物を倒せば……!」


兄が食い下がるが、村長は苦悶の表情で首を振りながら答える。


「無理じゃ。幼いころから戦火の下で戦ってきたおぬしと村民たちは違う。この村は戦いを知らずに歴史を重ねすぎたのじゃよ……」

「ぐ……」

「済まぬが、村人の奮起を信じるにはワシは年を取りすぎたんじゃよ」


そこまで聴き、覚悟を決めたような表情で、リズリーは頷いた。


「分かりました……。その代わり、これが終わったら私たちを余所者ではなく、村人として迎えてください……」


村長は彼女を直視できなかったのだろう、振り向いて答えた。


「約束しよう。……こんな臆病者の村の住民で良いなら、な……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る