エピローグ:魔王との決戦の後に

エピローグ1 その功績は本当は魔王のものなんだ

「英雄ワンド様!」

「ワンド様、これから復興ですね!」

「やっと帰ってこれるなんて、最高ですじゃ! ワシも恩を返しますぞ!」


ワンドが『魔王ゼログ』を討伐して数日後。

世界各地から『英雄ワンド』の名を聞いて様々な種族や人々が旧トエル城に集まってきていた。


「イレイズ! よかった、無事だったんだな!」

「あれ、エイドナ! 久しぶりじゃんか!」


元四天王のエイドナもその一人だ。

友人でもあるイレイズを心配にして見に来たのだろう、無事を確認して嬉しそうな表情を見せていた。


「てっきり殺されたと思ったよ、イレイズ!」

「ワンド様が許してくださったからな。……エイドナも、これからはワンド様に従うのか?」

「勿論! あのゼログ様を倒したほどの奴だってんなら、大歓迎さ!」

「最後の戦いは本当に熱かったよ。あんたにも見せたかったなあ……」



ワンドの計らいで、元四天王だったイレイズをはじめとした、旧トエル城の魔族の罪は問わなかった。


そのため、今後は人間と魔族がこのトエル城で、手を取り合って復興することになる。

これは『ゼログ』の名で帰順させていた他の魔物の村も同様だ。彼らは今後『英雄ワンド』の元で人間と共に生きることを誓ってくれた。



そんな中、豪奢な服に身を包み、そして笑顔を向ける端整な顔の青年がいた。

……ワンドだ。両隣には、同じく豪奢な服をまとったシスクとフォーチュラがいる。


彼はトエル帝国の国王に指示をされると頷き、そして集まっていた人々に対して声をかける。


「みんな。これから、よろしく頼むぞ? ……それでないと……天国のトーニャに顔向けできんからな」


それを聞き、人々はワンドに同情の目を向ける。


「トーニャ? ……聖女トーニャ様のことか」

「……先の戦いで魔力が尽き、命を落としたと聞きましたが……」

「……分かりました、私たちが彼女のために頑張ります!」

「これからは、みんなが平和に暮らせるような世界にしていきましょう!」


それを聞いたワンドは笑みを浮かべ、王城の窓を開いて庭園に集まっている民衆たちに対しても大声で呼びかけた。



「ああ、ありがとう。みんな、これからも手を貸してくれ!」



すると、「わああああ!」という声と共に、民衆たちもまた、英雄ワンドに対してあるものは叫び、またある者は感極まって涙を流していた。





それからしばらくして、民衆やエイドナたちがみな帰途につき、部屋にはワンド一行と王族の面々だけが残った。


「はあ……流石につかれたか……」

「お疲れだね、シスク様? 肩もんであげよっか?」


シスクが憔悴したようにため息をつくのを見て、フォーチュラは肩を揉もうと後ろに立った。


「ああ、ありがとう……」



その様子をほほえましそうに見ながら、国王はシスクに語り掛ける。


「今日もよく頑張ったな、シスク殿。もう、ゆるりと休むといい」

「ええ。……それじゃ、解除します……」


そういうとシスクは魔法を解く。

すると、ワンドの姿が消滅した。



「そなたのその幻影魔法は本当に便利なものだな。今度は、私の影武者役を呼び出してもらうのも悪くはないな」

「いえ……これだけ正確な影を作ると消耗が激しいので、よほどの時以外は頼まないでください。その為に『聖女トーニャ』は死んだことにしたのですから」



国王が冗談めかして言うが、シスクは苦笑しながら断った。

その様子を見ながら、王女もクスクス笑っていた。

彼女にかけられた氷魔法も完全に消滅し、すっかり良くなっていた。



「シスク様って、頭も良いから本当に助かっていますよ。……本物のワンド様やトーニャ様にも、私はお会いしたかったですけどね……」



あの戦いの後、シスクはただ一人トエル帝国に戻り、ことの顛末を報告した。

『魔王ゼログ』はこの戦いで勇者ワンドに敗れ、死んだこと。

そして、聖女トーニャは『魔法無効化』を用いすぎたことで魔力が尽き、命を落とした……ということにしてほしいこと。



そして、今後は自身が幻影魔法を用いた『偽英雄ワンド』を表に立てながら、トエル帝国の復興に力を貸すこと。


王女の魔法が解除された時点で『魔王ゼログ』が死んだことは国王たちも分かったのだろう、その礼と言うこともあり、国王はその提案を快く引き受けてくれた。

王女はシスクに少し心配そうに尋ねる。



「けどシスク様、良いのですか? 元の村に戻る選択肢もあったと思いますが……」

「いえ……。あの村での私の居場所はリズリーあってのものですから……。それに、私が傷つけてしまった人たちのために、少しでも罪滅ぼしをしないといけませんからね」



シスクは今まで、リズリーのために山賊行為を繰り返してきた。

その贖罪の意味も含め、今の立場で働くことを決めた。

当初は一人で全部やろうと思っていたシスクだったが、


「シスク様がトエル帝国に行くなら、私も手伝ったげる!」


というフォーチュラの希望もあって、今は二人でトエル帝国を支えるために奔走している。




「ねえ、シスク様?」


フォーチュラは、シスクの肩をもみながら尋ねる。


「なんだ、フォーチュラ?」

「今頃みんなどうしているかな?」

「ワンドたちか? ……そうだな、今頃また、オークに追っかけまわされているのかもな」

「ワンド様、すっごい弱いからなあ……心配になっちゃうよ」

「心配、か……そうか、フォーチュラはそう思うか。けど、あいつらは大丈夫だ、断言する」

「どうして?」

「それはな……」



シスクはそう言って、楽しそうに笑いながらフォーチュラにその理由を説明した。

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