3-9 最弱勇者はリザードマンと接敵しました
そして俺たちはすぐに街を発ち、闘技場に向かうことにした。
「それにしても、暑いな……」
「そうですね、ワンド様は平気ですか? そうだ、氷魔法で冷やしてあげますよ?」
リズリーがそう言って心配してくれた。
魔力を無駄遣いさせるわけにはいかないし、彼女に心配をかけたくない。
そう思って俺は首を振る。
「いや、大丈夫だ、ありがとう。……けどさ。リズリー、来てくれてありがとうな」
「え?」
「シスクの件もあるのに、こっちを優先してくれて。しかも報酬もこれだけなのにさ」
俺は少女から貰った小さな果物を見せた。
本人曰く、お金が無いからという理由でせめてもの報酬として渡された品だ。
貧乏そうな子だったが、これくらいならば貰うのが逆に礼儀だろう。
リズリーの時のように体を報酬に差し出そうとしてこなかった分、断る手間が省けて正直有難い。
「い、いえ! 私だって、肉親を失う辛さは分かりますし、それに……ワンド様とトーニャだけじゃ心配ですから!」
「ハハハ、ありがとう。……リザードマンは氷魔法に弱いからな。頼りにしているよ」
「ええ! ……ワンド様、お水は必要ですか?」
そう言ってリズリーは水筒を差し出してくる。
魔法で作られた氷は水分補給の役に立たない。……もし役に立つなら、この世界から水不足の概念は消滅してくれるのだが。
だが、俺が口を付けた水筒をトーニャは使いたくないだろうな。
そう思い俺は固辞した。
「いや、平気だ。トーニャと二人で分け合うから。リズリーは一人でそれを飲んでくれ」
「そ、そうですか……」
そう話しているとトーニャが横から声をかけた。
「……ねえ、ワンド。のど乾く前に少し果物かじっておこうよ?」
「そうだな」
俺は自分の分の果物をかじろうとしたが、トーニャに止められた。
「待って、ワンド。その果物少し傷んでるから私のをあげる」
「え? ……いいのか?」
見た感じ果物は傷んでいないが、トーニャがそう言うならそうなのだろう。
俺はトーニャから果物を受け取り、かじる。
一瞬、妙な味を感じた気がしたが、すぐに甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「うん、うまいな」
「その果物は私が捨てておく」
「…………」
その様子をリズリーは何故か、怪訝な目で見つめていた。
俺がトーニャの分の果物を食べるのが気に入らないのだろう。
「ワンド様? 母親の救助が成功したら、お祝いになにか食べたいものありませんか?」
「お祝い、か……そうだな、フォーチュラは何が良い?」
「あたし? なら、ラザニア食べたい! 神父様が作ってくれるラザニア、すっごい美味しかったから!」
俺は実は脂っこいものはあまり好きじゃない。
だからラザニアはあまり好きじゃないが、この場で主張してリズリーを困らせるのもよくないな。
「お、いいな! じゃあさ、俺も手伝うから、でっかいの作ろうか?」
「良いんですか? それじゃあお願いしますね?」
「やったあ、楽しみ! 早く依頼を成功させようね!」
「…………」
今度はトーニャの方が、釈然としない顔をした。
リズリー一人に押し付けるのは良くないと思ったが、逆だったのかな、と思いながらも俺は歩を進めた。
しばらく歩くと、小さな丘が見えた。
俺はその丘の向こうに動く影を感じた。
……リザードマンだ。
「いたね、ワンド……」
「まだ気づかれてないみたいだね。……どうする?」
「……多分、このあたりを見張っているのでしょう」
その少し先に闘技場が見えた。もっとも今はただの遺跡となり、魔物の巣のようだが。
リザードマンは怖そうな外見とは裏腹に、その表皮は意外と脆い。
その為、俺とトーニャでも倒すことは出来るだろう。
だが、そこでリズリーはつぶやく。
「ワンド様……私がやります。先制攻撃で仕留めましょう!」
「……分かった。だけどむやみに殺すなよ?」
「勿論です。……夜のとばりと共に北の風と共に参らん……」
そうリズリーが詠唱をすると、あたりが急に寒くなり、
「やあ!」
その掛け声とともにリザードマンの周囲に吹雪が現れる。
「ウギ? ギイイ!」
奴らもオークと同様会話が成立しないタイプの魔物だ。
だからこそ、こうやって倒していくしかない。
しばらくして寒さに耐えられなくなったのか、リザードマンはその場に倒れこんだ。
「これで半日は起きないでしょう。……いかがです、ワンド様?」
「さすがリズリーだよ。ありがとうな」
「凄いなあ……あたしも魔法が使えたらいいのに! リズリーさん、すごいよね!」
フォーチュラも思わず賞賛の声を上げると、リズリーは恐縮するように笑みを浮かべる。
「フフフ。褒めていただき光栄です!」
「……そんなことより、先を急ごうよ?」
「ち、ちょっと待てよ、引っ張るなって!」
トーニャはそう言うと、俺の袖を引っ張りながら砂漠を進んでいった。
闘技場の周辺にも見張りが居たが、今度はトーニャが倒してくれた。
「……これくらいなら、私にもできる」
トーニャは回復魔法を含む光系の魔法しか使えない。
だが、閃光魔法でひるませた後に飛び込み、彼らの顎を揺らして倒した。
やっぱりトーニャは頼もしい。
「凄いな、トーニャ」
「トーニャお姉ちゃんも凄い! よし、次は私に任せてよ!
そうフォーチュラが笑うと、俺は少し自分が情けなくなった。
俺だけ、リザードマンを倒す実力がない。
出来るのはせいぜい、トーニャ達が戦いやすいように足止めをするくらいだ。
……だけどここで張り合ってもしょうがない。
俺には、俺の出来ることをやっていかないと。
そう思いながら、俺たちはリザードマン達が多いところを避けながら、闘技場の入り口を探した。
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