第5章 依頼:トエル帝国で姫君を封じ込めた魔王を始末してほしい

5-1 ゼログ編 魔王は最後の四天王と決着をつけたようです

「ここが、かつての魔王城、か……」


ゼログはワンドたちを魔法で吹き飛ばした後、単身大陸の北東にある城に向かっていた。

そこは魔族たちによって占拠された、かつての首都『トエル帝国』であった。


この城に魔王はかつて住んでおり、今は四天王最強の女魔導士『イレイズ』がその城を仕切っていると聞いたことがある。


魔族特有の瘴気が充満しており、ゼログは少し不快な気持ちになった。


「……幸いというべきか、人間はいないか……」

「待て、貴様は何者だ!」


その城門前で、二体のガーゴイルに呼び止められたゼログは足を止めた。


「私は魔王の名を受け継いだもの、ゼログだ。……あなた達の頭目と話がしたい」

「魔王……様……だと?」

「ふん、怪しい奴! 信用……できる……か……」


だが、威嚇とばかりにゼログはその魔力を解放した。

その周囲を丸ごと包み込むような凄まじい魔力のほとばしりに、ガーゴイルたちは言葉を失う。


「わ、分かった……通れ……」

「……魔王様すらかすむほどの魔力……貴様は何者なんだ……?」

「私は、ただの転移者だ。……通してくれ」

「ああ……」


ガーゴイルたちはそう言われて恐怖におびえながら、門を開けた。



そしてしばらく城内を進むと、玉座には美しい女性がそこに座っていた。

身体からはゆらゆらと陽炎が立ち上っている。


彼女の種族はドラゴン・ロード。見た目は人間とあまり変わらないが、すべての竜族を統べる能力を持っている。




「あなたが元四天王筆頭、イレイズだな」

「……その魔力……あんたの魂……魔王と融合したんだね?」

「そうだ。私は新しい魔王、ゼログだ……」

「ゼログねえ。……エイドナから聞いたよ。人間だったころにあの子を力技で負かしたんだって?」

「ああ。恐ろしい相手だったがな」

「……フフ……心にもないことを。聞いたよ。かすり傷一つ付けられなかった相手だってね」



そう言いながら、イレイズは全身から炎を立ちのぼらせる。



「で、あんたがここに来た理由は分かってるよ……目的は、この城と……あたしの首だろ?」

「……あなたの方こそ、私の持つ『魔王の魂』が欲しいだろう? この魂を喰らえば、あなたが新たな魔王になれるということだからな」

「アハハ、よくわかってるねえ……! それじゃ、やろうか!」



そしてイレイズは全身から炎を吹き上がらせる。



「さあ、踊り狂いな! 魔王様すら恐れた、炎の龍と共にね!」


そしてその炎を龍の形にして自らの剣に宿し、切りかかる。

……だが。

その一閃はゼログの表皮を傷つけることすらなかった。


「……こんな攻撃、受ける必要もない」

「な……!」


これにイレイズは言葉を失った。

それでもあきらめずに再度剣を振り上げる。……だが。


「遅い……これで終わりだ……」


ゼログはその振り上げた剣を片手で抑え込み、足を払う。


「きゃあ!」


そして倒れたイレイズの手から剣をもぎ取り、放り投げる。



「……私の勝ちだな」


そしてイレイズの胸元に剣を突きつけ、つぶやいた。

観念したのか、イレイズはこくり、と頷いて目を閉じる。


「……そのようね。……あんたは私を殺すの? それとも襲うの? あたし、可愛いもんね」


イレイズは自らの炎で衣服を燃やさないためか、かなり露出の高い服を着ている。

だがゼログは彼女には一切の興味を示さずに答える。



「どちらでもない。あなた達魔族たちは、今後私に帰順してもらう。私が死ぬまでな」

「断ったら?」

「あなたをこのまま解放する。無理に帰順させるつもりはない」


そうゼログは答え、剣を鞘に納めた。

……この状況なら、素手でも負けることはないという意志表示だろう。



「だが、その後私の意にそぐわないことをしたら……あなた達をヴァンパイアと同等の『話の通じない魔族』とみなし、今度は殺す。徹底的に、一族郎党すべてを、だ」



その凄みに少しひるみながらも、イレイズは答えた。



「フ……なら、仕方ないわね。私たちイレイズとその配下は、今後は魔王ゼログ、あんたに帰順するわ」


その発言に、ゼログは笑みを浮かべて手を差し伸べる。


「そうか……。それならいい。私はこれから人間共に宣戦布告を行う。……ついて来てほしい」

「ああ、分かったよ。……何をすればいいの?」

「ソニックドラゴンを手配してくれ。私は魔獣を操ることは出来ないからな」

「それならお安い御用だよ。……それで王都では私たちはどうするの?」

「ただ、私について来てくれればいい。あなた達のその姿は、それだけで人間を脅かす恐怖を煽る」


そう言われると、イレイズは微妙な顔をして答えた。



「……なんか、褒められてんだかバカにされてんだが、分からないね……けど、良いよ。付き合ったげる。……みんな! 今日からこいつが、あたしたちの主君だよ! 良い?」


イレイズの発言に、周りにいた側近と思しき魔族たちは口々に叫んだ。


「分かりやした、イレイズ様!」

「こんなに強い魔王様なら、大歓迎でさあ!」


「よし、それでは早速向かうぞ。……目的地は、『新生トエル帝国』だ」


このトエル帝国を魔王に乗っ取られて以降、その国の王族たちは大陸の中央付近に亡命政権を作り、そこを『新生トエル帝国』と称して政を行っている。


この世界は自治が行き届いており、普段は帝国が強い影響力を及ぼすことはない。だが、それでもその『新生トエル帝国』を襲えば、世界を震撼させるには十分となる。


「…………」


イレイズはゼログの端整な横顔を見て少し顔を赤らめると、答えた。



「あ、ああ、分かったよ。……じゃあ、ソニックドラゴンを用意しとくね、魔王様」

「すまないな。……それと……」

「なに?」

「先ほどは危害を加えてすまなかった。……けがはないか?」

「……フン……とにかく準備しとくね」



流石は竜族を統べるドラゴン・ロードと言ったところだろう。

イレイズは10分程度でソニック・ドラゴンを集めてゼログの前に集合させた。



「よし、行くぞ!」

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