5-7 そもそもラスダンって、空から強襲すれば仕掛け解かなくていいですよね
そして翌日の夕方から明け方にかけ、俺達はソニック・ドラゴンに乗って魔王城に向かっていた。
やはり夜に高高度を飛行すると体中が冷える。
あまり体が丈夫じゃなさそうなリズリーが心配になり、俺は尋ねた。
「リズリー? ……寒くないか?」
「……ごめんなさい、少し寒くて……ギュッとしてもらって……いいですか?」
そう言うとリズリーは俺に体を預けようとしてきた。
だが、トーニャはシスクの体をぐい、と寄せてリズリーの間に割り込ませた。
「寒いなら、お兄ちゃんにでも抱き着いてれば?」
「おい、トーニャ……勝手に私を巻き込むな……」
シスクは憮然としながらトーニャを睨みつけた。
「……もう……。じゃあ、兄様で良いです。ほら、腕開けてハグしてください」
「『で』ってなんだ。……ったく、世話が焼ける妹だな……」
そうは言いながらも、妹に甘えられるのは嬉しいのだろう、シスクはどこか明るい表情でリズリーの身体を後ろからそっと抱きしめた。
「……ねえねえ、シスク様? あそこが魔王城だよね?」
その様子を見て少し妬けたのか、フォーチュラはシスクの袖をぐいぐいと引っ張りながら、訊ねてきた。
シスクはこくり、と頷いた。
「幸いだな。……どうやらこの高度を警戒している魔物はいないようだ。恐らく正面から来ることを想定しているのだろうな」
いわゆる「魔王城」に限った話ではなく、要塞化された城の場合は内部構造が迷路のように複雑になっていたり、おかしな仕掛けがあったりする場合が多い。
一方で、この世界では空を飛ぶ魔物自体は珍しくないが、ソニック・ドラゴンのように雲の上の高高度を高速で飛翔できる魔物は非常に稀である。
その為、堅牢な城であっても少人数による上空からの侵入は、意外なほど効果がある。
徐々に近づいている魔王城の前に、トーニャはぽつりとつぶやいた。
「……そうだ、ワンド? いつものあれ、やってよ」
「……フフフ、そうですね」
「うん、ほらシスク様も!」
「え? ああ……」
フォーチュラは手を握る言い訳が出来た、とばかりにシスクの手を取り、前に出した。
そうしてトーニャ達もみんな手を前に出した。
……みんな、本当にいい仲間たちだ。
仮に俺がここで死んでも、幸せな人生だったと胸を張って言えそうだ。
「ああ。……今回の戦いは、あのゼログだ。恐らく絶望的な戦いになると思う。……けど……」
そして俺はぐっと拳を握った。
「みんな、力を貸してくれ!」
「いくらでも!」
「勿論です!」
「シスク様、頑張ろうね!」
「責任は取るさ」
それを聞いて、みんなは「おー!」と気合の入った声を上げた。
魔王城の最上階にあるバルコニーに忍び込んだ俺は、玉座に向かって走っていく。
「なに、奇襲だと!」
「みな、急げ!」
バルコニーの警戒はやはり薄かったが、魔王城を巡回してい歩哨や空から警戒していた兵士たちが、大声で周囲に呼びかけながら次々に俺達に向かってきていた。
「いでよ、ともがらの影よ! そして戦え、己自身と!」
シスクは以前俺たちに使用していた『相手と同じ能力の敵の影を呼び出す魔法』を用いて、周りの敵に次々にぶつけていく。
「ぐ……こいつは、俺達だと……?」
「やるぞ、こいつは……」
当然同じ能力の相手となるので、決着は簡単にはつかない。
その隙に俺達は先に進む。
「おい、お前ら! そこから動くなよ!」
「目に見えず遮るは風! 風を止めるは我が心! いでよ!」
「ぐは! ……くそ、障壁魔法か……」
それでも影をかいくぐってきた相手に対しては、トーニャの障壁魔法を壁代わりにして、追跡を阻む。
「侵入者が! この私から逃げられると思うな!」
「俺の速さを見くびんじゃねえ!」
「来ましたね……! 天井より降り注げ! 偉大なる巨岩よ!」
さらに、障壁の展開が間に合わずに迫ってきた相手には、リズリーが魔法を使い、敵の注意を上に引く。
「ぐ……この程度……きゃあ!」
「下……? やられた、翼が……!」
そして、元々背が低いことに加え、構えが大きく前傾する姿勢であるフォーチュラが、足元から迫る。
注意を上に向けていた相手が、フォーチュラに気づくのは至難の業だ。
不意を突いて相手の脚を払ったり、翼を引き裂いたりして転倒させる。
「見て、シスク様! あたしだって活躍できるんだから!」
「ああ、流石だな、フォーチュラ!」
「えへへ……後でもっと褒めてね?」
こいつらは、一体一体がシスクにも匹敵するほどの強敵だ。
出来る限り戦闘自体を避けなければならないと考え、俺達は敵を足止めしつつ魔王城を走った。
……無論、このやり方を選んだ背景には、むやみに殺生はしたくないという俺のわがままも含まれているのだが。
「いいぞ、みんな! この次の道を右だ!」
……そして悲しいかな、俺に出来ることはただ一つ。
『メンバーの先頭を走りながら皆を鼓舞し、そして目的の玉座までの道案内をする』
ということだ。
幸い、旧トエル城の間取り図は国王陛下が持っていたため、俺はそれを頭に叩き込んでいる。
はっきりいって、俺の仕事は誰にでもできることなのはわかる。
……だが、そんな俺でも与えられた仕事がある。なら、それを全力でやるだけだ。
「リズリー! 正面に岩石型の敵が2体いる! 魔法で蹴散らしてくれ!」
「任せてください、ワンド様!」
「フォーチュラ! 回復薬だ、使ってくれ!」
「ありがと、ワンド様!」
「トーニャ! シスクを狙ってる敵が窓の外にいる! 守ってやってくれ!」
「任せて! シスク、こっち!」
「すまない、トーニャ!」
敵の様子が一番見えているのは、メンバーの先頭におり、かつ戦い自体には参加できない俺だ。
あまり役には立たないとは分かっていたが、俺はそれでもメンバーに指示を出しながら先に進んでいた。
……そして俺達は、玉座に続く扉を開けた。
「シスク、頼む!」
「……はあ……はあ……任せろ。影よ、その姿を変え、扉を封鎖せよ!」
やはり、相手と同様の能力を持つ影を作るのは、相当な魔力を使うのだろう。
シスクは肩で息をしながらも、連れてきた影の形を変え、玉座の前にあるドアにまとわりつかせた。
……これで後続の魔物たちが俺たちの方に来ることはない。
逆に言えば、俺達が逃げることも出来なくなったとも言えるが。
「やはり来たか、ワンド……」
そこには、魔王と化したゼログと、その横には竜族の頭目とも思える女性が居た。
……おそらく彼女が、四天王の一人『イレイズ』だろう。
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