1-14 おまけ・勇者ワンドたちが去った後の村人たち

これはワンドたちが村を去った数時間後の話である。


「にしてもさ、本当にあのミノタウロスは強かったよな!」

「というかさ、俺達、なんであんな魔物なんかにビビってたんだろうな」

「そうよね。……正直、私たちでも倒せるなんて知らなかったわね」

「これからはさ、しっかり自警団作ってみんなで村を守ろうね?」



村人たちは、そんな話をしながら集会場で酒盛りをしていた。

既に夜も遅い。

その為怪我が深かったものや村長をはじめとする高齢者、そして子どもたちはすでに眠りについており、若者が中心になって楽しそうに酒を手に笑いあっている。


そして酒が進むにつれ、次第にワンドたちの話に移る。



「にしてもさ、勇者ワンド様ってのも噂ほどじゃなかったよな」

「そうよね。あの程度……って言っちゃ失礼だけど……私たちでも倒せるような魔物に、あんなにボロボロにされるんだもの」

「ひょっとして、俺達より弱いんじゃないかな?」

「アハハ、まさか。きっと、シスクの奴にボコボコにされた後だったんだよ、きっと」


リズリーの兄、シスクが今までの事件の黒幕だったことは、すでに村人たちには周知の事実となっている。


「ま、それにしても弱すぎるとは思ったけどな。噂ってのもあてにならないぜ」

「けどさ……。あの、なんど殴られても、くじけないでミノタウロスに立ち向かう姿は……かっこよかったよね」

「……だな……」


村人たちもその時のことを思いながら、感慨深げにワンドのことを思い出していた。

だが、ある村人は少し嫌そうな顔でつぶやく。


「けどさ、あのトーニャ……だっけ? あの小娘ははっきり言ってむかついたな」

「あ、分かるよ! あそこまで私たちのことバカにしなくても良いよね?」

「ワンド様もなんであんなのと一緒に居るんだかな?」

「そりゃ、弱いから守ってもらわなきゃ生きていけねえからしょうがねえんだろうな」

「ちげえねえ! 気の毒な方だよ、ワンド様も!」


村人たちはそう言いながらガハハと笑う。




そんな中、独り少し寂しそうに酒を飲む男が居た。


「おい、どうしたんだよ、そんな辛気臭そうにさ」

「だって……リズリーが……いなくなっちゃったんだよ……」

「ああ……リズリーちゃんねえ……良い子だったのにね」


村人たちもそう言いながら少し残念そうにうなづいた。


「お前、リズリーのこと狙ってたんだよな?」

「うん……。いつも明るいし可愛いしさ、すごいいい子だって思ってたから……」

「まあな」


だったら、村長が彼女を人柱にする前に何とか言い返せよ、とは村人の皆が思った。

だが、彼のその気弱そうな性格を考えるとそれも難しいと思い、言うのはやめておいた。



「あの子、料理も美味しかったし魔法も得意だったし、人気だったよな」

「ああ。……それをワンド様が持って行っちまうんだからよ! 人生って不公平だよな!」

「だよな。……つーかさ、なまじ、ワンド様に惹かれる気持ちがわかるから余計に俺たちがみじめになるってもんだよ!」


そう言って酒をぐびりと煽ったところに、一人の若い村人がにやりと笑い、つぶやいた。



「そんなにあの男のことを言うならさ。今回の戦いのことだけどさ。滅茶苦茶誇張して、隣町に伝えるってのはどうだ?」




その意味が分からないといったように、村娘が尋ねる。


「どういうこと?」

「ワンド様が一人で、森いっぱいにいるミノタウロスを皆殺しにしたとか、伝説に名を残しているほどの高位のネクロマンサーを始末したとか、そんな感じかな? とにかく派手に『ワンド様』を祭り上げるんだ」

「……ああ、そういうことか」


そこまで聴いて、他の村人も笑みを浮かべた。


「『ワンド様は伝説と言われるに恥じないほどの実力者でした!』って言いふらすわけか。そうすりゃワンド様は名声を得られる。……で、代わりに、また今回みたいな無茶な依頼が舞い込むってわけか!」

「アハハ、そりゃいい! 恩返しと憂さ晴らしを両方できるってわけだな!」

「……そうだね、リズリーちゃんを射止めたんだもん。それくらいは許されるよね?」


先ほどまで泣いていた村の青年も、そう意地悪そうに笑みを浮かべた。

そんなんだからモテないんだよ、こいつは。


「よし、そうときまりゃ、早速始めようぜ! まずは隣の村にはさ……」


そう村人たちが笑いながら、この村の夜は更けていった。

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