1-11 ゼログ編3 最強勇者はソロプレイばかりさせられます

ワンドたちがミノタウロスを相手にしている時間帯で、ゼログはある街で依頼を受けていた。


「負けるな、みな! あなた達の手を貸してくれ!」


ゼログはワンドの服装を模した『偽ワンド』の身なりをしており、雪山で『勇者(この世界ではフリーの討伐隊を指す)』たちを勇気づけていた。

彼が受けた依頼は『ミノタウロスの巣窟に行き、戻ってこない勇者を連れ帰ること』である。


「そ、そうは言ってもワンド様……」


だが、救出対象である女性……彼女も『勇者』だろう……は、ゼログの声に対してしり込みするように震えていた。


この世界には写真などないので、服装や身なりを整えるだけで偽物になり切れるのだろう、彼女たちはゼログがワンドだと信じ込んでいる。



「こんな化け物の集団相手に無理ですよ……」


彼女が弱音を吐くのも無理はない。

周囲は遥か遠くまで埋め尽くすほどのヒートヘッド・ミノタウロスに包囲されていたためだ。


ミノタウロスのハンマーが勇者に向けて振りあげられる。


「あぶない!」


それを見たゼログは剣を大きく振り、その風圧で勇者に迫るミノタウロスを吹き飛ばした。


「グアアアア!」


飛ばされたミノタウロスは背後にいた3体のミノタウロスを巻き込み、岩に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


勇者のパーティの1人であろう男性もおずおずとつぶやく。


「ワンド様とは違うんですよ、俺達は……」


勇者たちはすでに交戦を重ねていたのだろう、既に満身創痍の状態であった。

その一方、雪原いっぱいに広がるヒートヘッド・ミノタウロスたちを相手に、ゼログは息一つ切らしていなかった。


「……く……なら、私から離れるな! 必ず守ってやる!」

「ありがとうございます、ワンド様!」



完全に戦意を喪失した勇者たちを庇いながら、ゼログは次々にミノタウロスを倒していく。

そのさなか、ゼログは思った。



(やはり、ワンドのようにはいかないか……あいつは、本当にすごい奴だったな……)



そう思いながらも魔力を込めた腕で周囲を大きく凪ぐ。

すると雷雲から次々に雷が落ちてきた。


「グオオオオ……」

「グガアアアアア!」


ミノタウロスたちは断末魔と共に次々に消し炭となっていく。

いかに好戦的なミノタウロスといえど、さすがに戦力差を悟ったのだろう、蜘蛛の子を散らすように消えていった。



その姿を見て、勇者一行は感激したように自身に礼を言ってきた。


「あ、ありがとうございます、ワンド様……」

「流石、伝説の勇者様! 助かりました……」


だが、そう言われたゼログの表情はあまり明るくない。


(ワンドは……あいつは……どんな奴でも勇者……私の住んでた世界で言われていた『勇気あるもの』に変える力を持っていたな……)



そう思いながらもゼログは助けた勇者たちに笑みを浮かべた。


「さあ、みんな。街に戻ろう」

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