リターンマッチ

第24話

 佐川家の玄関ドアが開く。


「ただいま」


「あら、涼、おかえりなさい。いきなり飛び出して驚いたわよ」


「ごめんなさい、母さん」


「全く不良息子に育てた覚えはないのだけど、母さん困っちゃうわ」


「不良か...そうかもな」


 涼は鬱向き、母親から目線を下に逸らした。


「全くどうしたの、学校、アルバイトとかで何か困ったことでもあったの?」


「いや、うん、あのさ、うちの隣は空き地になってるじゃないか。あれって、ここに家が建つ前も空き地だったの?」


「そうよ、うちの家を建てたときも最初から空き地よ。その話と困り事に何か関係してるの」


「そうなんだ、困り事とは関係ないよ。ただアルバイトの宅配業は忙しいなって思っただけ。おっとそろそろ学校へ行く準備しないと」


「うーん、わかった。無理しないでよ。後、朝ご飯は冷蔵庫の中よ。母さんは夜勤上がりだから、もう少し寝るわね」


 母との会話を終え、足早に自室へ戻り身支度を済ませた。制服に着替え終わると朝食を取り、学校へ向かい、アルバイトといつも通りの日々。なんてことない日常。そのはずなのに胸が苦しい。「優しい言葉の1つでもかけて欲しいのか俺は」

涼はアルバイトの帰り道、隅田川のベンチに腰掛けた。


「…(斉木さんとは、長い付き合いでもないし義理を果たす必要なんて...ないはずなのに……)」


 泣きたくなる気持ちをグッと堪えた。必死に無関係な自分を装う。「自分の責任じゃない」

 ニーグリに巻き込まれて、恵、斉木さんと娘さんがいなくなった。「誰が異空間に行きたいって望んだ。俺はそんなこと誰にも頼んだ覚えはない」不合理を呪いたくなり、自問自答した。同時に発端の奴がいたらブン殴りたいとも思った。


「そもそも、オマエが悪いのだろう」

 

 涼は後ろを振り返ると、奇妙な黄色の霊魂が話かけてきた。霊魂は弱々しく燃えているようだった。


「なんだ?」


「なんだとは、失礼な奴だな。私だよ、タールだよ」


「…(タール?何かの冗談か、全く意味がわからない。お前は俺がニーグリの世界で倒したはずだ)」


「そのとおり、だがせっかくグーンの闘いで助けてやった命の恩人にもう少しお礼とかないのか、あーん、小僧」


「はぁ? 助けた、お前に助けられた覚えはない」


 タールの魂は、小馬鹿にするように涼の頭の上をくるくる回り出した。


「ハハハ、では言おう。なぜ、お前はグールの攻撃に耐えられた? お前が奴に短剣を突きつけ、ボコスカ殴られたんだぞ。同伴だった奴は1撃であの世行きだ」


「それは、気合い?」


「全く、相変わらず力の使い方を知らない馬鹿な小僧だ。私が力を貸してやったんだ」


 涼は「なぜ? そんなことをしてくれるのだろうか」不思議な気持ちだった。とはいえ助けられた。そして、一言。


「ありがとう」


 タールの魂は、その言葉を聞き嬉しそうにピョンピョン跳ね、涼の顔面に自身の霊魂をぶつけた。

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