第23話
目を開くと見覚えのある古ぼけた建物の前に座り込んでいた。
「あぁー、良かった。この建物を見ると安心する」
涼は立ち上がり、その建物に向かって歩き出した。ドアまで着くとアンティーク調のドアノックを歯でかぶりつき。勢いよく、ドアノックを1回叩きつけた。
大きな音が鳴る、ドタドタと慌ただしくこちらに向かう足音が近づいてくる。ドアが開くと色黒の店主が顔を出す。
「どうしたんだ、ボロボロじゃないか」
「斉木さん、申し訳ありません。終了の鐘まで厄介になります」
「あぁ、いいが。どうしたんだ?左腕はあらぬ方向に曲がっているし衣服は泥だらけ。うーん、派手に負けたのかい」
斉木さんは、コーヒーカップを2つ用意しミルでコーヒー豆を引き始めた。燻した豆の良い香りが漂う。涼はカウンターの椅子に腰を掛けた。ちょうど残り5分の鐘が鳴った。
「コーヒー豆の良い香りですね。この左腕が折れていなければ頂けるのですが、残念です」
「あー、すまない。嫁がコーヒー好きでね、ついつい作ってしまうのだよ」
斉木さんは慌てて、コーヒーカップの1つを食器戸棚に片付けた。ビーカーを手に取った時だった。突如、壁が大きな音を立て崩れた。
涼と斉木さんは、突然の出来事で何が起こったのかすぐには「理解できなかった」壁の穴から光る目が2つ、巨大な体躯。忘れることもできない存在、グーンだ。
「おい、おい、佐川いけねぇーな。まだ終わりじゃねーんだよ」
グーンの右拳が佐川の腹部を直撃。食器戸棚のガラスが割れ、激しく壁に叩きつけられた。涼は口から黒い血を吐いた。
「もう終わりにするぜ」
右腕を振りかざし、絶体絶命だ。グーンの右拳が止まる。斉木さんが青龍刀でグーンの拳に斬りつけていた。
「おい、おい、邪魔するんじゃねぇーよ」
グーンは左拳で斉木さんの顔面を殴り、壁の外まで吹き飛ばされてしまった。涼は力を振り絞り、斉木さんの所まで駆け寄った。
「涼くん、そこにいるのかい」
斉木さんの目は潰されて、虫の息の状態だった。斉木さんは続けた。
「バーカウンターの4715だ、決して忘れるな。俺の住所覚えてるよな、嫁に会いに行って。ふぅ、格好つけたが死ぬのは怖いな。怖くてたまらないよ。まゆ...大きくなった姿見たかったな......。としこ、すまん後は任せた」
その言葉を残して、斉木さんは息を引き取った。涼は理性の糸が切れた。グーンに殴られたときに、弾き飛んだ短剣の柄を口に咥えた。
「グーヌ、ぎざまぁー」
涼の怒りの刃は、グーンの喉元を捉えた。しかし、グーンは果敢に攻める。涼はボロボロになっても歯が何本か折れても決して離れなかった。次第に闇が街を取り込み始めた。涼は短剣を口から離し、捨て台詞を吐いた。
「必ず、刃を届かせる」
グーンと涼は闇に呑まれ、視界も黒に染まった。
涼は目を醒ますと、いつものベッドにいた。時刻は朝の7時。慌てて私服に着替えた。「学校は」という家族の静止を無視し斉木さんのアパートまで走った。
「406号室は、ここか」
チャイムを鳴らすと、施錠が外れ女性が顔を覗かせた。
「どちら様ですか?」
「斉木 としこさん、突然すみません。私は斉木さんの知り合いの佐川 涼と言います。まゆちゃんはお元気でしょうか?」
「としこは私ですが、斉木でなく鈴木 としこです。まゆちゃんはこの家にはいませんし、私は独身です。家を間違えていませんか?」
「表札を見ていませんでした。失礼しました」
その会話の後、としこはドアを閉め施錠した。涼はその場を離れた。その背中は小さく頼りないように思えた。
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