第42話
「たっくん。りっくんの容体は?」
「はい、残念ながら手の施しようも御座いません。このまま逝かせてあげましょう!」
傷ついた涼を隆が診るが、「何とも不機嫌そうな顔」で体のあちこちを触った。
「たっくん…さっきは物凄い早かったよね……」
「お嬢様の障害になる人物を見たので、偶々、手を出してしまいました。深い意味は御座いません」
ミカはクスクスと笑い、隆が涼を「助けた言い訳を聞いてあげる」のだった。ミカが隆の側に寄ったとき、風がふわっと顔に掛かる。
「おしゃべりは終わり?」イリが手を振り上げた瞬間、その手から黒い霧が広がり、周囲を包み込む。視界が奪われ、緊張感が場を支配する。ミカとイリの目が合った。2人とも不適な笑みで応酬する。
「何を笑っている! 笑っていいのは、私だけだ!!」
先手を取ったのは、イリの飛び蹴り。ミカは素手でいなす。仰天するもミカの足が止まらず、前へ距離を詰める。イリも切り返し、後方から回し蹴りで応酬。
耳を澄まし、わずかな風切り音を聞き分ける。次の瞬間、イリの攻撃が迫るのを感じた。「そこね!」薙刀を呼び、振るい、刃が足を止める。
「へえ、反応できるの」イリは微笑みながら、さらに強烈な蹴りを繰り出す。しかしその瞬間、隆が空中に跳び上がり、細長い鞭のような武器を使ってイリの足を絡め取った。
「隙だらけよ、影さん!」
ミカもまた俊敏な動きでイリの背後に回り込み、銀色に輝く小さなナイフを投げつけた。それは彼女の肩をかすめ、黒い霧が一瞬揺らぐ。
その隙を逃さず、全力で薙刀を振るう。その刃がイリの胸に深く突き刺さったかのように見えた。しかし、手に伝わる感触は奇妙だった。イリの体が煙のように消え、笑い声だけが響く。
「あなた面白いわね」
「全力で楽しませてあげるわ」その声とともに、霧が晴れ、イリの下半身が太く。強靭な蹴りをミカに喰らわせた。
「お嬢様!」
隆が少し動揺するも「いいえ、盾で受けただけ」ミカが冷静に言い放つ。盾、薙刀を投げ捨てる。それらは地面に落ちる前に姿が消える。
「これならどう?」
ミカが静かに構えると、空気が一瞬にして張り詰めた。彼女の手のひらに青白い光が集まり、それはやがて小さな光の刃となる。
イリは笑みを浮かべながら、ゆっくりと前進した。その姿はどこか異質で、肌が徐々に金属のような輝きを帯びていく。彼女の動き一つひとつが、ミカに圧倒的な威圧感を与える。
「人間ごときが、私に太刀打ちできると思って?」イリの声は低く、どこか愉悦が混じっている。
「試してみないと分からないでしょう」ミカは淡々と答えると、光の刃をイリに向けて投げ放った。刃は鋭い軌跡を描きながら一直線に飛んでいく。しかし、イリは微動だにせず、その太い脚で地を蹴ると、恐ろしい速度で横に飛び退った。刃は虚空を切り裂き、地面に突き刺さると静かに消え去った。
「遅い!」
イリが叫ぶと同時に、彼女はミカとの距離を瞬時に詰め、その巨大な脚で地を踏み鳴らした。衝撃波が周囲を駆け巡り、ミカはその勢いで後退せざるを得なかった。しかし、彼女はすぐに体勢を整え、静かに次の攻撃の準備を整えた。
「やるわね」ミカの瞳に僅かな闘志が宿る。「けれど、その程度では私を楽しませるには足りないわよ!」イリが叫び、全身から闘気のような赤黒いオーラを放ち始めた。
「人間にしては上出来だったが、これで終わりね」
「えぇ、あなたがね」
言葉とともに、ミカの周囲に白い光の輪が広がり、イリの赤黒いオーラとぶつかり合った。二人の力が拮抗し、辺りの空間が歪むように見える。
次の瞬間、二人は同時に動いた。イリの蹴りが空気を裂き、ミカの光の刃が鋭い軌道を描く。衝撃音が辺りに響き渡り、地面には深い裂け目が生まれた。
戦いはまだ始まったばかりだったが、既にその激しさは尋常ではなかった。
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