第38話

「田中って、俺に穴掘りを依頼した人じゃないか。確か男…あれ、女の人だったの……」


 三つ編み姿の女性を見て、何かを感じた。この人と対面した瞬間、記憶がピースとなり蘇ってくる。あれは「確か2011年12月頃」……。

 雪が降りそうな冬の季節。その日は特に冷え込み、小降りの雪が降っていた。涼はバイト帰りで足早に自宅へ向かうが、ある場所で足を止めた。その場所は隅田川にある公園だった。その公園のベンチに男性と思われる人が1人で座っていた。


「あの」


「はい、あ、私ですか」


「はい、こんな寒い日に白布みたいな薄着1枚で寒くないですか?」


「いえ、寒くありません」


「そうですか、なぜここにいるのですか」


「へ……実は私と一緒に穴掘りをしてくださる人を探しているのです」


「穴掘りですか、何もこんなところで探さなくても」


「ふふふ、なら貴方が手伝ってくれるのであればすぐに解決するんですけど」


「給料次第なら、考えますけど」


「そうですか、なら日給1万円でどうでしょうか」


「1万、やります。やらせてください」


 白布1枚の男? は、ベンチから立ち上がる。にっこりと微笑み、宜しくとお互い握手を交わした。その手は寒空で冷たい筈なのに、手の温度を感じなかった。


「私、田中です。宜しくね」


「はい、宜しくお願いします。ところで失礼なことを聞きますが、貴方は田中くん、田中さんどっちなんですか?」


「え、君はどっちだと思う」


 涼の視界がぐらつき、その場でふらつき始めた。頭も少し痛くなり、急に眠気も襲ってきた。田中は倒れそうな涼の手を掴み、涼の内ポケットに1枚の地図を入れた。


「その地図に穴掘り仕事の詳細と場所が書いてあるから、起きたら見てね」


 涼は目を醒ますと、田中の姿はなく自身がベンチの上に座っていた。「あの田中という人物は何者だったのだろう?」っと考えている内にもう自宅の玄関先だ。よく考えても仕方ないと思い、家族が待つ家へ帰宅した。記憶のピースの1つを思い出した。


「そうだよ、あの時は胸もなく、女っぽくない髪型の責でわからなかった」


「失礼だな、君。あたしだってね、好きでこうなった訳じゃないんだよ。そう生まれつきだよ」


「あ、はい。ごめんなさい」


 田中は少し不機嫌そうに顔のほっぺを膨らませた。というより「本題の話をさせてほしい」涼は田中を急かし本題の話になるよう誘導した。


「さて、田中さん。色々聞きたいことはありますが、まずは1つずつ確認させてください。ここは未来の日本と貴方は言いましたが、今は何年の何月ですか?」


「そうだね、2024年7月ぐらいだね」


「そうですか、自分がいたのは2012年。あれから12年後の世界ですか。ではなぜ日本は滅びたのですか?」


 田中は少し顔を俯いてから、軽く深呼吸をした。


「信じられないと思うが、人間と知的生命体との邂逅によるものだね」


 涼は少し笑いそうになったが、我慢し深呼吸した。


「なるほど、知的生命体ですか。彼等は何者かわかっているのですか?」


「残念ながら、どこから来たか、何者かもわかっていない。わかることは、彼等は残虐でとても恐しい存在だった」


「だった?」


「そう、知的生命体は既に絶滅しているんだ。人類全ての命を犠牲にして滅ぼしたからね」


「絶滅したんですか、人類全てを犠牲って、そんな大掛かりな戦闘があったんですね」


「あぁ、私と君でね」


「……は?」

 

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