第37話

 夢の中の人は、顔がぼけやており顔が認識できない。強い口調から男だと思われる。何やら自分と思われる男に救いだの、夢の世界とか訳のわからないことを言っている。

 

「俺はいったい何をしているんだ。何だ今の夢の言葉は、それにこの荒れ果てた世界は何なんだ。ニーグリが現実……そんな嘘信じられる訳ないだろ」


 タールの霊魂は何も答えない。霊魂の輝きも弱々しくなっている。今にも火が消えてしまいそうなマッチのようだ。

 涼がいる場所は床を歩けばギシギシと音がして、今にも崩落の危険もありそうだ。空は青く、明るさから恐らく正午頃。当然、時計や電子機器も機能しておらず、電気の供給も止まっていると思われる。


「タール、どうせ影牢みたいな技を使ったんだろう。早く元の世界に戻せよ。急にいなくなったら家族が心配するだろう」


「……」


「何で答えないんだよ。こんな意味わからない世界に飛ばされて迷惑してるんだ。あれ……迷惑。迷惑をかけたのは、俺。いや……違う。タール、いいから早く戻せよ」


「今のお前は惨めだな」


「なんだと……」


「私は先程の技で力を使い果たしてしまった。まもなく、ニーグリへ戻るだろう。だが戻る前に言っておくことがある。いつまで何もない世界で独り、誰もいない所に語りかけているのだ。そんな暇があったら力をつけろ。言ったはずだ、力を示せ。力無きものは何も知る事はできない。ただ奪われるだけだ」


 タールの霊魂が消えていく。涼の心境は少し複雑で、納得いかない表情をしていた。


「ではな、現実の世界で待つ」


「…(力を示せって、まだ夢を見ているのか。こんなの信じられるか。だが、今いる場所は自分がいた家に似ている。夢から醒めるまで少し見て回るか)」


 涼は1階から2階の自室と思われる部屋の扉まで移動した。途中の階段はボロボロで、同じ足跡が複数あった。

 扉は屋根に空いた隙間から雨が染み込み、腐敗が進んでいた。扉はかなり黒ずんでおり「あまり触りたくない」と思った。目線をドアノブに向けると手の跡がついていた。

 その扉のドアノブに手をかけ、扉を開閉した。そこには古ぼけたベッド以外何もなかった。ベッドは、いつも誰か寝ていたのかマットレスにくっきりと跡が残っていた。


「……(こんなこと信じられない。ここが俺の家、そんな馬鹿な。変な夢だ。そうだ、学校を見てみよう)」


 玄関まで移動し、ドアを開けた。外に出て後方を振り返り、目線を上にし家全体を眺める。家は2軒あり、少し移動し汚れた表札を掌でなぞる。そこには佐川と書かれていた。隣に目を向けると見慣れた家があった。そこの表札には篠原と書かれている。


「……(おかしい、おかしい。篠原家はサーザスによって、存在が消されたんだ。やっぱり夢なんだ)、ハハハ……そうだよな」


 何も信じられず、荒れ果てた隅田川のジョギングコースを歩く。荒れた道だった場所は、草木が生え少し歩きにくい。ジョギングコースなのに誰1人歩いておらず、見かけることもなかった。15分くらい歩き続けると、学校と思われる場所へ到着した。


「夢から早く醒めろ……」


 学校は幽霊スポットなのか、廃墟と化していた。暗く電気も水道も止まっている。床には埃が溜まっていたが、その上に足跡がついていた。その足跡と自分の足を重ねると、ピッタリと一致した。


「いつまで……こんな夢を早く醒めろ……」


 涼は学校を後にして、斉木さんの家、缶詰工場を見て回った。しかし、どの建物も人はいない。誰も会わない。

 暫く歩くと、信じられないものを見た。目に止まったのは紙のポスターだった。剥がれかけたポスターは、映画宣伝を謳ったものだ。涼はそのポスターの公開日に驚いていた。


「2015年4月公開って、俺がいたのは2012年の筈だ。なぜ未来の情報が書かれているんだ」


「3年後の世界ってことか「はい、そうですか」って納得できるか」今あることを肯定できず、ひたすら歩き続けた。しかし、夢から醒めることはなく、疲れただけだった。

 何も発見できず、仕方なく元いた場所に戻ることを決め、また歩き出した。元いた場所に着いたのは、赤焼けが綺麗な夕方に到着した。佐川家に誰かいるのが見えた。

 涼は走り出し、やっと見つけた人の側まで駆け寄った。


「やぁ、佐川君。初めまして」


 やっと見つけたのは、白い布を着た少し赤っぽい髪型の女性だった。


「貴方は誰ですか、ここは何なんですか?」


「私は田中。ここは、日本そして滅亡した未来。佐川君、やっと会えましたね、彷徨う者……いや、定めを抗う私の希望」

 

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