第15話

 飛び出してきたのは、武士を模した土人形だった。涼は目視した瞬間、猛ダッシュで逃げ出した。


「…(まったく、ついてなさ過ぎる。このマントも土人形には効力がないのか)」


 生物以外には効力がないと思われる。マントは万能ではなく、盲点を突かれたらしい。


 土人形は顔なしだが、涼の正確な位置を把握しているようだった。赤外線センサーが付いているかのように、涼の足跡を追跡している。


 土人形の後方からガガガという大きな音が迫ってくる。何やら声がどんどん大きくなって‥


「お嬢様の裸を見た不届き者はどこだー」


 土で形成されたサーフボードに乗り、たっくんが現れた。涼の認識阻害マントの効力もあり、視認されずキョロキョロとあたりを見回している。


「先程から監視していた輩出てこい」


 サーフボードから飛び降りると、その場で立ち止まりまた大きな声で呼びかけた。そう言われて「バカ正直に出る訳ない」と思った。


「貴様には3つ選択肢をやる。

1つ、この場で私に撲殺される。

2つ、自害する。

3つ、お嬢様に100万を即金し私に撲殺されるか。

さあ、選べ」


「どの選択肢も生き残れんじゃねえか。

お断りだ」


「やってしまった」ダメとは思ったが「ついツッコミを」入れてしまった。


「見つけたぞ、破廉恥ヤロー」


 土人形が涼に体当たりを仕掛けてきた。それを左手のガントレットで空気の塊をぶつけ、土人形を爆散させた。


 その様子を見て、サーフボードをブーメランに形状変化させた。ブーメランの取手を掴み勢いよく、涼に投げつけた。


「この、土使いヤロがー」


 続け様の攻撃もガントレットで軌道をずらした。ブーメランは木を切断し音が森林奥へと消えた。

 涼とたっくんは、何かタイミングを合わせたかのように前進した。


 涼はガントレット、たっくんは土で形成したメリケン。拳を重ねると大きな振動が発生し、不協和音が響く。


「破廉恥ヤローだが、中々やるな。

お前名前は?」


「ササキ タケシだ」

バカ正直に本当の名前を名乗る必要もないと思い、偽名を名乗った。


「ササキ タケシか、私は吉田よしだ たかしだ」


 ボロボロと両者の武器が破損していく。お互いに距離を取り、睨み合う。


「せめて楽に死ねるなら本望だろ」


 隆の周囲に盛り土が集まっていく。それが複雑な形になろうとしている。涼はタールのクロスボウを呼び出し、速射するが土壁が攻撃を阻む。その時、キッチンタイマーのアラームが鳴った。


「いかん、時間だ」


 隆は背を向けると、盛り土は崩れサーフボードになった。その上に飛び乗り、山の斜面を波乗りした。


「この勝負勝手に預けさせてもらう」


 斜面を雑に降りていく姿を見て、涼は唖然としていた。


「とりあえず、助かったようだ。

うーむ、なんだか疲れた」


涼はその場に座り込んで、小休止した。

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