第8話

 佐川は薄れゆく意識の中で、4人の影が近付くのが見えた。


 どうにか逃げる手立てを考えるも佐川は動くことができなかった。


 左腕、左足骨折。右腕欠損、右足に複数の打撲。


 サーザス、サイ、イリ、グーンが佐川と対面する。サーザスが口火を切った。


「イリ、グーン、サイご苦労様です。見事に対象者を見つけたようですね。対象者の捕食はグーンへ任せますかね」


 サイ、イリ、グーンはサーザスの影の姿となった。そして、サーザスに跪いた。グーンは返答する。


「捕食了解しやした。しかしながら、サーザス様にご報告しやす。タールのことです」


 サーザスはタールがいないことに気づき、グーンに尋ねた。


「タールですか、彼は今どこにいるのですか」


 グーンは顔を伏せる。


「佐川に敗れ、影の力を奪われやした」


 サーザスはハットを深々と被りぽつり。


「あの獲物狩りが敗れたということですか」


 サーザスの言葉を受け、クロスボウの矢が佐川の前に現れた。

 佐川は左手を伸ばそうと試みるも体が動かない。矢が潰される音がする。サーザスの足だ。


「どうやら、あなたも私と同じようですね。ですから、ここで退場してもらいましょうか。グーン、屍は頼みますよ」


 サーザスの左手が激しく回転する。旋盤加工のように回転数が上がり、キーンと音が鳴る。人間の動く稼働を超えている。


 佐川は呟く。


「ちくしょう」


 サーザスの左手は佐川の心臓目掛け突き刺そうとする。鈍い音がなる。機械音だ。佐川が目を開ける。

 そこにはハンマーで、サーザスの左手を受け止める影が見えた。


 見覚えのある女性の影。恵だ。


「あんた達、もうすぐタイムアップよ。これ以上の攻撃は、認める訳にはいかない」


 いつもの恵と違う。やっと会えた知り合いに安堵し、佐川は気をしっかり保った。


 サーザス、影3人と恵は睨み合う。


 恵は佐川を抱え、大きくジャンプする。ハンマーの柄を持ち振りかぶる。

 1里先まで届くような巨大なハンマーとなり、勢いよく振り下ろした。


 地震の振動かと思う揺れが発生する。住宅街がめきめきと音を立て、家が潰れていく。

 恵はハンマーを放置し、何やら唱えている。


 ハンマーのか細い柄から口へ飛び移った。3つの影が迫るが、恵は影達に向かい一言。


「さよなら」


 無数の光が影達を照らす。


 グーン、イリ、サイは形を保てず、崩壊していく。グーンは悔しそうにハンマーの口に拳を叩き込んだ。ハンマーには衝撃で亀裂が入った。


「佐川 涼覚えたぞ、タールの仇は必ず果たすぜ。次回が楽しみだぜ」


 影3人の姿は崩れ落ち消えた。恵はハンマーを元の大きさに戻した。


「まったく、何してるの。もう少しで死ぬところだったんだから。私が巡回してて良かったわ」


 恵の言葉から恐らく、何度も同じ体験をしていると思った。

 色々聞きたいことはあるが、まずは身の安全が優先だ。


「影とサーザスは……」


 恵はハンマーの傷を確認していた。


「影達は元の記録書に戻したわ。今回は出て来れないでしょうね。サーザスという男は初めて会うわ。何者かしらね」


 ハンマーの柄を肩に置き、佐川に駆け寄る。欠損箇所に紐で絞り、他の傷の様子を見た。


「傷の具合は……」


 恵の言葉が急に止まり、佐川が恵を見る。佐川は固まる。


「なんで」


 恵の右胸に黒い槍が突き刺さっていた。

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