彷徨う漆黒
カイト
はじまりは突然に
第1話
ある朝、十代半ばの男はジョキングコースを走っていた。東京隅田川の景観を眺める余裕もなく、額に汗を滲ませていた。
男の名前は、
何やら急いでいるようだが、周囲の反応は佐川を気にする素振りを見せない。
「なんで、こんなことになったんだ」
「頼まれただけなのに」
ジョギングコースは、長く目的すらわからなくなりそうな道程だ。日頃鍛えているのか、中々の速度で走っている。前方に橋が見えたとき、男らしき影が見えた。
「何だろう」
首を傾げつつ、額から落ちる汗が目の中に入る。目を擦った2秒後、その男は距離を詰めてきた。
眼前に黒のハットとタキシード姿の老人が立ちはだかる。老人が手を挙げると、突風が佐川の体を宙へ浮かした。そして川へと引き込まれてしまった。
タキシード男はにっこりと笑い、佐川に尋ねた。
「君に調査を依頼した人を探しているんだ」
平泳ぎし河岸に辿り着き、目線を上にし大きな声で返答した。
「調査を依頼したって何のことだよ」
「あんたは何者なんだよ?」
タキシード男から笑みが消え、想定通りの質問としたり顔をした。
「やはり、そうなのか」
「そうなると完成したのか、フフフ、面白くなってきた」
言葉のキャッチボールができない、会話が成立しない。何やら、危険なにおいがする。佐川は河岸から逃げる姿勢を取った。
「面白いことがあったようですね」
「お互い変な世界に巻き込まれた同志です」
「俺は先を急ぐので、そろそろお暇させてください」
と答えた瞬間、タキシード男の姿が影となり消えた。背後に気配を感じ、振り返えるとタキシード男の右手が激しく振動し風を発生させていた。
理屈はわからないが、風の勢いが強くなっていく。
「君も選ばれたのですね」
タキシード男の歓喜な喜びの顔を見せた刹那、佐川の右ストレートが男の左頬に炸裂した。
男は2m後方へ蹌踉めき、雑草の上に倒れこんだ。
「なんだかよくわからんが、鉄拳制裁」
「悪いことをしたらごめんなさいだろうが、悪を嫌う佐川 涼とは私の事だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます