彷徨う漆黒
凧揚げ
はじまりは突然に
第1話
ある朝、十代半ばの男はジョキングコースを走っていた。東京隅田川の景観を眺める余裕もなく、額に汗を滲ませていた。
男の名前は、
何やら急いでいるようだが、周囲の反応は佐川を気にする素振りを見せない。
「…(なんで、こんなことになったんだ。確か何か頼まれたような気がする)」
どうやら記憶が混濁しているようだ。前方に橋が見えたとき、男らしき影が見えた。
「何だろう?」
首を傾げつつ、額から落ちる汗が目の中に入った。少し乱暴に目を擦り、再び目を開く。
黒のハットとタキシード姿の老人が目の前に立ちはだかる。老人がふと右手を挙げると、上昇気流を発生させた。その気流の中に佐川は巻き込まれて意識を失った。気が付くと川の中にいた。全身ずぶ濡れだった。
老人はにっこりと笑い、佐川に尋ねた。
「君に調査を依頼した人を探しているんだ」
平泳ぎし河岸に辿り着き、目線を上にし大きな声で返答した。
「調査を依頼したって何のことだよ、あんたは何者なんだよ?」
老人から笑みが消え、想定通りの質問としたり顔をした。
「やはり、そうなのか。そうなると完成したのか、フフフ、面白くなってきた」
言葉のキャッチボールができず、会話が成立しない。何やら、危険なにおいがする。佐川は河岸から逃げる姿勢を取った。
「面白いことがあったようですね。お互い変な世界に巻き込まれた同志です。俺は先を急ぐので、そろそろお暇させてください」
と答えた瞬間、老人の姿が影となり目の前から消えた。背後に気配を感じ、振り返えると右手が激しく振動し風を発生させていた。
理屈はわからないが、風の勢いがどんどん強くなっていく。
「君も招待されたのですね」
老人の歓喜な喜びの顔を見せた刹那、佐川の右ストレートが老人の左頬に炸裂した。
老人は2m後方へ蹌踉めき、雑草の上に寝転んだ。
「なんだかよくわからんが、とりあえず鉄拳制裁しておきます。…(また濡れるのはイヤです)……佐川 涼です、とりあえず落ち着きましょう」
佐川が声をあげるも依然として、周囲の反応もなく鎮まり返っている。
寝転んでいた老人は、ゆっくりと立ち上がった。服に付いた汚れを軽く叩く。やれやれという表情を浮かべながら、佐川を睨みつけた。
「ひどいアプローチですが、私も挨拶をするのが礼儀ですかね」
周囲をキョロキョロし、ハットを見つける。男は左手を伸ばした。ハットを深々と被り、視線を佐川に向けた。
「私の名前はサーザスです、どうぞお見知りおきを」
眼を合わせた瞬間何やら異様な気配を感じた。服装からかなりお高いタキシードと思われる。ネクタイも黒色でお葬式かと感じる程だ。
紳士的な雰囲気に苦手意識を持ちながらも、佐川は相手を観察してみた。
身長は180cmくらい、黒髪ロングのオールバック、目は赤色でつり目、体型は痩せ型。
恐らく50歳と思われるが、姿勢が良く年齢を感じさせない佇まいだ。反撃の拳が左頬にヒットしたが、赤みもなく平然としている。
「…(うーむ、苦手なタイプだ)」
ゲンコツ制裁するお爺さんタイプの方がまだ話が通じそうだ。佐川は左足を前に踏み出し、目線をサーザスに向ける。
「ごめんなさい」
と言い、頭を軽く下げた。サーザスは無反応だが、佐川は続けた。
「右ストレートが見事に決まったことは謝罪します」
突然の出来事だが、「佐川も悪い」と思い反省しているようだった。だが、どこかむず痒く納得できない自分がいる。
なぜ、自分は川へ投げ飛ばされなければいけないのか。初対面なのに、こんな理不尽を受けるのはおかしい。佐川は強い口調で言った。
「とはいえ、あんたも悪い。変な力で吹き飛ばされて、こっちもびしょ濡れだ。どうですか、お互い、ごめんなさいでこの場を納めませんか」
サーザスは不敵な笑みを浮かべ、右手を挙げ振り下ろす。佐川は不思議そうにその姿を見ていた。
その瞬間、目に見える三日月の風が発生した。その風は佐川へ向け放たれた。
⭐︎最初で最後のお願い⭐︎
作者は承認欲求モンスターに変身しがちです。この暴動を止められるのは、読者様からの❤️、⭐️評価です。少しでも面白いと感じられたら、評価いただけたら、幸いです。⭐️レビューは、泣きそうになります。
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