第45話
ミカの周囲が炎に包まれた。彼女の身体から放たれる熱気は地面を焦がし、空気を歪めていく。その一方で、イリは冷静だった。黒い影に包まれた彼女の姿は次第に人間らしさを取り戻し、やがて「一角女王」と呼ばれる美しい女性へと変貌を遂げる。
「溶岩女王と一角女王…面白い戦いになりそうだね」
イリが微笑みながら呟くと、彼女の額に一本の黒い角が浮かび上がる。それはただの角ではなく、闇そのものが凝縮したような禍々しさを放っていた。その角が光を吸収するように輝くたび、周囲の空間がまるで裂けるように波打つ。
「私の本気を見たかったんだろう? 遠慮はしないよ」
イリが指を一つ鳴らすと、黒い影が鞭のように地面を叩き、衝撃波がミカの方へと押し寄せる。しかし、ミカは怯むことなく、その場に立ち続けた。彼女の全身を覆う灼熱のオーラが黒い影を焼き払い、空気中に火花を散らせている。
「私は退かない。この力で…私のすべてを懸けて…勝つ!」
ミカの叫びと共に、溶岩のように赤く輝く剣が彼女の手に生じた。それは彼女自身の力が具現化した武器だった。
ミカの手に握られた剣は、まるで溶岩の塊そのものだった。剣先から滴る赤い液体は、地面に触れるたびに小さな爆発を引き起こし、焦げた煙を立ち上らせる。その熱気に周囲の空気が震え、視界が揺らぐ。
「それが君の全力か」
イリは冷静な瞳でミカを見据えたまま、黒い角を輝かせた。その角の周囲に無数の黒い影が集まり、イリの右手に一本の巨大な槍のような形を成していく。
「なら、私もそれに応えないとね」
イリが手を軽く振ると、黒い槍が音もなく宙を滑り出し、まるで生き物のようにしなやかにミカに向かって突き進む。黒い槍が放つ闇の気配は、熱すら呑み込むほど深く、空間そのものがひび割れているかのようだった。
「その程度? 足りないよ!」
ミカが声を張り上げると同時に、彼女は溶岩の剣を地面に突き立てた。その刹那、彼女の周囲の地面が割れ、噴火するように赤い溶岩が溢れ出した。その溶岩は彼女を守るように盾を作り、イリの黒い槍と激突した。
ズン―――溶岩と闇がぶつかり合い、衝撃波が戦場を飲み込む。その衝撃で木々が薙ぎ倒され、地面が深くえぐれた。二人はどちらも後退せず、互いの力を押し合っている。
「やるじゃないか」
イリの口元に笑みが浮かぶ。しかし、その笑みの裏には、余裕だけではない何かが感じられた。
「まだまだ!」
ミカが叫ぶと、彼女の剣がさらに赤く輝きを増し、その熱気で空気が一瞬白く染まった。その剣を高く振り上げ、全力でイリに向かって振り下ろす。
「はぁぁ―――!!」
巨大な炎の刃が生み出され、イリの影を一瞬で飲み込む勢いで迫り来る。イリは動じることなく、角に手を触れて呟いた。
「影穿の盾」
イリの前に現れたのは、空間そのものを裂いたような黒い盾。その盾が炎の刃を受け止めると、激しい光と影の衝突が再び起こり、轟音と共に爆風が吹き荒れた。
その瞬間―――空が裂けた。
雷鳴が轟き、二人の戦場に新たな存在が現れる。高熱と闇の狭間に、一陣の涼風が吹き抜けたのだ。
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