第44話

 戦いの舞台は、かつて静寂をたたえていた森の中。だが今や、木々は折れ、地面は抉られ、砂塵と轟音が空を満たしている。イリはその中心で、燃え立つような影を纏いながら、静かに立っていた。まるで風が彼女の怒りを恐れて逃げ出したかのように、周囲は一瞬の静寂に包まれる。


「ここまでやるなんて、やっぱり君はしぶといね」

 

 イリの声は冷ややかだが、その中にかすかな苛立ちが感じられる。ミカは息を切らしながら、膝をつきかけた体をなんとか立て直す。全身に傷を負い、剣を握る手も震えていた。だが、その目だけはまだ光を失っていない。


「まだ、終わってない…!」

 

 ミカの声は震えながらも力強かった。その一言に、イリの瞳が一瞬だけ鋭く光る。


「そうか。それじゃあ、もう少しだけ遊んであげよう」


 イリが指を軽く鳴らすと、その周囲に渦巻くエネルギーが一気に収束し、背後に巨大な影玉が広がった。その力から放たれる熱は、遠く離れた木々をも炭に変える。


「これが、私の本気の一端だよ。受け止められるものならやってごらん」

 

 イリは高らかに宣言すると、両手を広げた。次の瞬間、凄まじい速度でミカに向かって放たれる。その影玉はまるで生き物のように形を変えながら、ミカを飲み込もうとする。


 ミカはとっさに剣を構え、その力を振り絞って防御の結界を張る。だが、イリの放つ影玉は結界に触れるたびに激しく砕け散り、さらに強大な力となって押し寄せてきた。


「くっ…!」

 

 結界が次第に軋み、ひび割れが走る。その音がミカの耳に重く響くたびに、彼女は歯を食いしばり、全力で耐えるしかなかった。


 しかし、ついに―――。


「割れるよ」

 

 イリの冷笑とともに、結界が砕け散った。影の奔流がミカを包み込み、彼女の姿が一瞬にして視界から消え去る。


「これで終わりか」

 

 イリは影を収束させながら、その場を見下ろした。地面は黒焦げになり、ただの灰と化している。だが、イリは気配を感じ、鋭く目を細めた。


「まだよ!」

 

 黒煙の中から、ミカが飛び出してきた。傷だらけの体、黒い血に染まった剣。だがその剣先は、まっすぐにイリを捉えていた。

 ミカは静かに目を閉じた。すると、全身が赤く高熱を放出し衣服、剣は全て溶けた。「溶岩女王!」の異能。どうやら、本気で倒す覚悟で向かってくるらしい。


「君は面白いね。なら私も本気の姿を見せよう」

 

 イリの笑みが深まり、さらなる変化が起こる。黒い影が体を取り囲み、化け物でなく1人の美しい女性「一角女王」が姿を現した。

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